時代を超越しその偉才を発し続けるHYMER S660というモデル

キャンピングカー紹介
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ヨーロッパ最大にして最強のキャンピングカービルダーと言って誰も疑わない、それがハイマー社である。創業は1923年にAlfons Hymerが、シュツットガルトとミュンヘンのちょうど中間あたりの南側に位置するバート・バルトゼーという古い町並みの残る町に馬車製造を始めたことに由来。

1956年、その息子のErwin Hymerが事業に加わり、Erich Bachemの施設を合併し、両者協力のもと1957年にUr-Trollという現在にも続くERIBA Touringと呼ばれるトレーラーのシリーズが製造を開始している。
ここから起算し、HYMERは2017年に60周年を迎えた大イベントモデル構成をした。

Hymermobil ドイツから日本へ上陸への遍歴

自走式とみられるものは、1961年にいわゆるバンコンバージョンが作られたが、正式にモーターホームとして始まるHymermobilは1971年のキャラバンサロンで発表された翌1972年スタートだ。この段階で、ベース車両にはメルセデス・ベンツのトランスポーターが採用されていた。

着々と進化していくHymermobilの最初の転換点は1976年登場の521と呼ばれるモデルで、ダブルベッドサイズのプルダウンを装着したこと。これによりコンパクトボディでも十分な居住性や就寝スペースを確保できるようになった。このモデルは、77・78両年とも1000台以上の出荷を記録している。

そして1979年、時代を先取りした超エポックメーキングモデルが登場する。それがS-Classと呼ばれる現在にも続くシリーズ。このモデルの特徴は、緩やかな曲面処理をされた角を持つ一体成型グラスファイバー製ルーフを採用したこと。
このモデルの登場が、その後のハイマー社の立ち位置を決定付けたといっても過言ではなく、今回紹介するS660はその円熟期に登場したほぼ最終形で、80年代後半のものになる。

この円熟期のHymermobilは、当時日本にも輸入されていた。それはヤナセ傘下のウエスタン自動車が取り扱っていたが、製造はERIBA HYMERでかなり日本仕様へと手を加えられていた物、実は筆者もそのモデルを約20年ほど乗り続けていた。

ほどなく1988から89年にかけハイマー・ジャパンが正式に日本でディストリビューターシップの正規代理店として立ち上がり、ツーリング・トロール・シリーズのトレーラーとSクラスのハイマーモビル、ノバという高級トレーラーの輸入販売が開始された。

Hymer Japanとその象徴的モデルS660

ハイマーS660

今回取材できたS660は正規輸入される前、ハイマー・ジャパン創設者である故安達孝敏さん自らが、ヨーロッパでキャラバン生活を7~8年続けていた頃に乗っていたモデルそのもの。安達氏は、当時の知り合いの写真家を頼りドイツに渡った時、初めてハイマーに出会いその完成度の高さやグレードに感銘を受け即購入。この段階で、ホテル生活よりも快適なキャラバン生活を「キャンピングカー生活なんてイヤ」と言っていた妻と開始したのだ。
1台目のそのモデルは途中盗難被害を受け2台目を発注するのだが、その時盗難被害をも考慮した各種オーダーを行ない、その流れの中で当時の社長であったアーウィン・ハイマーと出会うことになった。その時、特殊なオーダーをする日本人に興味を持ったアーウィン・ハイマーは、わざわざ納車に出向いてきて日本でハイマーの販売をやらないかと誘ったのだ。そして当初、事業はアダチ・モービルでスタートするつもりでいたのだが、そこはハイマーを冠しハイマー・ジャパンと名乗り正規ディーラーとしてやろうというアーウィン・ハイマーの強い意向が反映された。
ハイマー・ジャパン初代社長は安達氏だが、すぐに二代目社長をその妻が引き継いだことからも、S660をはじめとするSシリーズの良さが、最初はキャンピングカーに否定的だった妻をもすでに魅了していたことの証明と言えるだろう。 その安達氏の2台目ハイマーSクラスの経緯はそういったもので、内容的にはオリジナルではなく色々製造時のオーダーが付加されている。

分かりやすいところで言えば、リヤダブルベッドスペースのサイドウインドウが取り払われていること。これは当時経験した盗難被害への対策だった。そして通常はダイネットである部分が、完全に夫婦2人仕様で構わなかったためラウンジ形状になっていることだろう。

また、左運転席横の昇降ドアは本来オプション。そのほかオプションでは、ルーフエアコンや発電機の装着があった。それは、当時のヨーロッパ車両全体に、エアコンの標準装備が無かったからとも言える。サイドオーニングも、大型のものがオプションで装備できるようになっていた。

このS660とそのシリーズのモデルは、現在でもドイツ本国でオールドタイマーとしての人気が高く、レストアして乗っているユーザーグループが多数存在するほどのモデル。同じ大きさでS670というモデルもあり、こちらはリヤベッドが縦置きのセミダブルベッドでトイレシャワールームも左後方に設置されたレイアウト違い。

S550というモデルも日本に輸入され、それはリヤベッドスペースがなく就寝スペースがフロントシート上のプルダウンのダブルベッドという構成。このモデルは、前出した512直系のコンセプトといって問題ないだろう。
またこのサイズとレイアウトはかなり使い勝手が良かったようで、その後登場するバンクベッドを持つキャンプシリーズやバンクのないトランプシリーズでも主力モデルへと成長していく。

実に乗りやすいパッケージ

筆者が所有していた外観がノーマルを保持しているS660。北海道の旅の途中
筆者が所有していた外観がノーマルを保持しているS660。北海道の旅の途中

シャシーはメルセデス・ベンツのトランスポーターであるMB408もしくは409のリヤダブルタイヤモデルが使われ、最終モデルでは410まで使われた。
エンジンは2.9Lディーゼルの自然吸気型。車両重量が2.8トンと軽量であることもあり、当時のドイツでの走行規制であるトラックレーン80㎞/hでの走行をなんら問題無く小気味良く走行することができた。

サスペンションは、前後リジットのリーフスプリングといかにもトラックという構成ではあったが、ガチガチした硬さは取り払われた設定になっていた。ただし、ノーマルでは初期入力がリジットサスっぽいガツンとした軽いショックがあったのは否めない。

ブレーキはフロントベンチレーテッドディスクにリヤはドラム。リヤダブルタイヤとドラムの制動力はかなりのもので、激しくフルロックさせることもできたので、制動力に不満を感じる事は無かった。

実はこの写真のモデルそのものを、筆者は2度ほど長距離試乗した経験があり、実際の走行で平均燃費を8㎞/Lほどを記録した覚えがある。積載物がなかったことも要因だが、かなり燃費がいいと思ったものである。
それは自分が所有していたS660がカタログでは6〜8㎞/Lとうたわれていたのに、6㎞/Lへと実際にそこへ達する事はほとんどなかったこともある。ただしそれはエンジンが2.3Lのガソンリ自然吸気型であった上に4速ATが付いていたからかもしれない。MTモデルだったら、もう少し燃費が良かったのかも。

運転感覚は、3mを超えるロングホイールベースがもたらすゆったりとしたもので、リヤシートに座っていても突き上げなどによる不快な部分は皆無。そういったことも当時としては驚くべき性能だった。

またメルセデス・ベンツにありがちなのだが、運転している方がビックリするほど小回りが利くのも魅力で、ハイエース・スーパーロングで切り返して入っていかなければならないような場所でも、スッと一発で決められるのは実に心地よかった。

サイズ感も、ちょうど良かった。長過ぎず幅もあり過ぎず、プルダウンベッドがあれば、本当に大人6名が余裕で就寝できるスペースが確保できたので、ダイネットを組み替える事なく4人家族ではゆったりとした空間を堪能できたのである。

家具調度品のグレードは、当時としての最上級

ハイマーS660車内

木部の仕上げの良さは、現代のモデルにも無いシットリとした古き良き時代すら感じさせるもので、気負う必要がなく落ち着ける感覚。またその家具の歪みが、30年を経過しても発生していないなど、元々の完成度の高さも感じさせる。

このモデルの特徴的だったものはそのボディスタイルだけではなく、フロントシートからの当時としては驚異的な視界の良さ。これはその開放感が圧倒的だった事と、運転席前にベッドが作れるのではないかと思われるほどの広い空間と相まって、運転する事そのものの概念を変えてしまった。
乗用車とはかけ離れた感覚がそこにはあり、初めてハンドルを握る人にとってそれは別世界であり、旅する気分を高揚させるのに十分すぎるほどの演出効果があった。

また断熱効果の高い床壁面のパネルを採用していることで、実は防音性も相当に高いレベルにありキャンプ中の車内は極めて静寂感が高い。周りの音がそれほど気にならないのである。

さらにルーフには、ハイマールーフと呼ばれる乳白色のアクリルでできた巨大採光窓が設けられ、それがチルトアップすることで空気の流れがドラフトで起こり夏も涼しく快適に生活することができた。

走行燃料とは別に用意されるエネルギーはLPガスで、ボンベは右側助手席横に10㎏のものが2本収納できるストレージになっている。この燃料で大出力のトルマ製輻射式暖房を動かし、降りしきる雪の中でもTシャツ一枚で過ごせるだけの生活空間を作り出せた。

ガスはそのほかに80Lほどの3ウェイ冷蔵庫の熱源とガスコンロの燃料としても利用される。真冬での使用で、1泊2日暖房を点けっぱなしで5㎏ほど消費。10Lトルマ製温水器を利用するとさらに消費量は増えた。
実際に1〜2週間といったスパンで生活するのに、収納力や生活で何ら不自由を感じる事は無かった記憶があり、筆者の場合子供達が乳幼児の頃にフル稼働させていたが、そのような状態でも困るような事は無かった。

現在の自動車としての規制や排ガスの問題はあるので新規登録というわけにはいかないが、30年前のこのままの姿で現在販売してもモーターホームとしての機能は十分に満たせるだけの内容である事は間違い無く、その時代を見据えた先進性の高さが際立ったモデルであった。

S660の細部を見る

ハイマーS660

全長×全幅×全高:662×220×282㎝ 乗車定員:5名 車両総重量:3105㎏

ルーフエアコンは、前オーナーがハイマールーフ部を塞ぎ装着したもの。サイドオーニングも同様。

ハイマーS660フロント

フロントシートはスウィベル機構を持ち回転する。シート位置は、一般的な日本人では最前に出しても足が届かないほどで、その空間的ゆとりが驚愕するレベル。

ハイマーS660ラウンジ

当時オプションにも無かったラウンジを装備。これは初代オーナーがメーカーへ製造時にオーダーをかけた結果。

ハイマーS660後部

サイドウインドウ左右両方が塞がれているのが、ノーマルのモデルとの違い。その分寝ている時の安心感などは高そう。

ハイマーS660洗面室

洗面台には壁面いっぱいの鏡が張り込まれ、その使い勝手の良さとシャワールームを広く見せる効果は絶大だ

ハイマーS660洗面台

洗面台のシャワーは、ワンレバーの混合給水で引き出して使う。トイレは当時最新鋭のセットフォードC-2タイプの17Lカセットタンク仕様。給水は電動タイプで、静水タンクそのものの容量は100L用意された。

ハイマーS660のドア

現在のモーターホームでは見られなくなったが、トレーラータイプ同様の上下分割式エントランスドアを持つ。ペットなどが居るとものすごく重宝する。

ハイマーS660のエントランス

エントランスステップは、手動式のものだが、サイドスカートと一体するデザインのものを採用。オプションで電動式もあった。ERIBA Hymerのシリアルはここに打たれている。

トルマ製の暖房機

通常の大型トルマ製暖房は3002だが、Hymermobilは倍の熱量のあるダブルコアの5002を採用し、たっぷりの室内空間を温めることができた。また、バックアップファンが装着され、ダクトを通し車内全域に暖気を引き回し、ウインドウ下では冷気の落ちてくる部分に直接暖気を吹き出す仕組みになっていた。

ハイマーS660の車内灯

キッチン上とラウンジ上のライトカバーは、洒落た擦りガラス風。蛍光灯もあるのだが、こちらの方が雰囲気たっぷり。年式によってその装備は変わっている。

ハイマーS660ウィンカー

一部年式で、ウインカーレンズが白いものが採用されていた。この車体ではサイドスカート部が本来のアルミ地肌の色ではなく、フロントバンパー同色に後から塗装し直されている。

ハイマーS660の3ポインテッドスターホイールカバー

当時も激レアだった3ポインテッドスターのダブルタイヤ用ホイールカバー。以前自分が同モデルを所有していた折、初代オーナーに譲ってくれと懇願したのだが叶わなかった代物。

ステッカー

紹介したS660は、ハイマー・ジャパンの礎になったモデル本体であり日本でのハイマー歴史そのものと言える。途中幾名かのオーナーの手を経たあと、ハイマー・ジャパンを引き継ぐRVランドがその重要性を十分理解し再取得、完璧な整備を行ないいつでも出動できる状態でRVランド本社が所蔵している。
そしてハイマー・ジャパンはこのSクラスを成功させ、30年近くの時を経た現代ではコンフォータブルな設計思想がその直系でもあるMLシリーズを展開している。そしてそれは、当時日本に輸入開始されたSシリーズのように、日本市場を十分考慮した作りで新作発表も日本国内のショーからというところにまで発展したのだった。

WRITER PROFILE
鈴木康文(TAMA@MAC)
鈴木康文(TAMA@MAC)

1991年、月間AutoCamper誌の前身であるDomaniの立ち上げに参加して以来、一貫してキャンピングカーとモーターホームの記事執筆を主に、アウトドア一般にいたるまで幅広く各種メディアでの活躍を続ける。途中DVDの制作や編集も手がけ、マルチメディアに対する興味は人一倍。現在は、’88 Hymer S660と同時所有していたトレーラーの’97 Hymer Touring Troll Puckをけん引中。

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