2024年2月に行なわれたジャパン・キャンピングカー・ショーにおいて、存在感たっぷりのML-T580 4WDが久々に展示された。このモデルはハイマーにおいてかなり異色の個性を放っており、一部に強烈なファンを惹きつけている。
そもそもML-Tを欲しがる人は、ベースがベンツであることが大事。もちろんフロントフェイスにも“らしさ”がなくてはならないので、キャブ部分が残ったモデルを好む傾向がある。
それがなぜなのかは分からないが、車体の大きさによるゆったり感や運転のしやすさ、ベース車両が高額であるがゆえの安心感もそこにはあるかもしれない。
ML-Tとトランプはベンツのスタンダードシャシーを使用しているのもそう言った意味で“らしさ”、なぜなら他のベンツベースモデルはハイマー用シャシーとなっているから。
ML-Tの背景
30年と少し前、ヨーロッパのキャンピングカーシーンに現代のキャンピングカーシャシーとして絶対的な存在になったフィアット・デュカトが登場した。エンジン駆動形式はFFでエンジンは1.8リットルと2.5リットルのディーゼルかターボエンジン。
時代的に車両が軽量だったこともあり、日常使いでのパワーの非力さはカバーされていたが、余裕がある方ではなかった。
しかしこのシャシーの登場がボディ構成の多様化を容易にし、キャブ部分が残りバンクベッドのあるアルコーブン、出っ張りのないハーフインテグレーテッド、そしてキャブ部分も架装されるインテグレーテッドという3タイプが、1つのシャシーで実現することになった。この当時にハイマーではキャブ部分が残るタイプではバンクの有るキャンプと無いトランプが登場した。
このトランプのスタイルが人気が出て、そのスタイルをより余裕のあるベンツシャシーで実現するために登場したのがML-T。
それとはまた別に、ベンツが発売する“ウニモグ”など強烈な4WDをベースとしたエクスペディション要素の大きな、カスタムメイドのモーターホームが少量生産、オーダーメイドを得意とするメーカーから昔から各種発売されていて、それなりの人気を博し市場を形成していた。
その頃はまだ、ヨーロッパでは乗用車は基本2WD後輪駆動が普通で4WDの乗用はほぼ存在せず特殊な乗り物として扱われ、四輪駆動車はワイルドなイメージも含め憧れ的存在だった。
一方ハイマーは、Sシリーズなどトップレンジにはすでにベンツトラック系シャシーを使用していたが、デュカト同様4WDの設定はなくエクスペディション的要素を持ったキャピングカーの存在はまだなかった。
2000年を超え、各自動車メーカーから乗用モデルへの4WD投入がヨーロッパでも始まり、フルサイズバンになるベンツ・スプリンターもその流れはやって来た。しかも見た目だけワイルドなわけではなく、ベンツが発売していたプフ製造のウニモグ同様本格クロカンと言っても差し支えないレベル。
ML-T580 4WDにおいてもその走破性は確かで、驚くほど確保された最低地上高やアプローチアングルが確保され、ちょっとジムニーで遊ぶようなコースでもオーバーハングに注意しながら走れてしまう。
安全性も現代の必須装備
ハイマーは現在、ベンツスプリンター4WDベースの欧州で大人気となっているベンチャーSという、ML-Tより小型でオフロードクロカンの雰囲気を最前面に押し出したモデルが存在する。
残念ながらこのモデルは日本に輸入されていないが、ML-Tと比較しショートホイールベースでリヤオーバーハングにはデパーチャーアングルを稼ぎ出すデザインと相まってものすごく意欲的なデザインで、ハイマーでは新しいカテゴリーの創生と言っている。
最初ML-Tを目の当たりにした時は「うわ、なんだこの高機動車ベースは」と仰々しさすら感じたほど、ランプアングルの大きさから乗り込みにくいかもと考えたがそれは走破性を優先した結果だ。
ベンチャーSとML-Tを比較すると、確かに最低地上高はあり収納ステップ越しでないと乗り込みにくいのは事実だが、実はとても落ち着きのあるデザインであったことが理解する。走破性を犠牲にすることなく、乗り心地の良いモーターホームというギリギリの線を攻めているのだ。
また安全装備も現代の乗用車並みに充実しているようだが、例によってベンツらしく何がどこに搭載されているのか運転者にはほとんど分からない、主張しないデザインが採用される。
価格は為替の影響もあり高額モデルになるが、全国7カ所、RVランドのほかトイファクトリー、ホワイトハウス、岡モータース、キャンピングレンタサービスなどでメンテナンスが受けられるので、日本全国で乗り回すのも問題なし。