完全オーダー製キャンピングカー「しのび」の和室仕様

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国際マーケットを視野に入れたキャンピングカー

Be-camシャシーの「SAKURA」
Be-camシャシーの「SAKURA」

数年前から国産キャンピングカーにも、国際マーケットを視野に入れた車両というものが出てくるようになった。つまり、日本の産業構造がグローバル化していくなかで、キャンピングカーづくりにおいても “外国人” の視線を意識したキャンピングカーメーカーが現われたといっていい。

そういうキャンピングカーメーカーのひとつに日本特種ボディー株式会社(NTB)がある。
同社が2015年のお台場キャンピングカーショーの会場でデビューさせたいすゞBe-camシャシーの「SAKURA」は、「海外に出しても恥ずかしくない国産キャンピングカーを意識した」(同社 江田敏夫会長)という車両だった。
「SAKURA(桜)」という日本語を車名にしたことも、海外で “メイドイン・ジャパン” を標榜してもいいように考えられたものである。

江田会長が考える “国際戦略車種” というのは、まずシャシーの徹底した安全性、堅牢性。そして、架装したときのボディ剛性の高さ、断熱性などに支えられて、室内環境を緻密に制御できる繊細な空調システムを持った車ということになる。
そのようなボディ造形を可能にしたシャシーがいすゞのBe-camであり、その1.5トンの標準ボディに架装したものが「SAKURA」、2.0トンワイドボディに架装した車両が「ASAKAZE」であった。

日本人が作った究極の快適空間

上記の2車は、顧客からある程度の仕様変更を受け付けるようにはなっているが、NTBが考え抜いた推奨レイアウトがあり、その基本構造から大きく逸脱することはできない。
そこで、顧客のリクエストをフルに受け入れる完全オーダー車として設定されたのが「ASAKAZE」のシャシーを使った「SINOBI(しのび)」である。

このボディが登場したのは、2017年の「ジャパンキャンピングカーショー」。
黒色に近いダークグリーンメタリックに塗られたスクエアなボディは、まさに装甲車のように会場に聳え立ち、見るからに精悍な威容を誇った。
しかし、このときは、まだ内装が組みあがっていなかった。中身はただのがらんどう。
それは、「内装はオーダーによって自由に組める」ということをプレゼンするためのボディであったからだ。

しかし、まったくサンプルがなければ、オーダーする人も、どのような内装を頭に思い描けばいいのか、分からないこともある。
そのための内装の一例が、今回の「ジャパンキャンピングカーショー2018」ではついにお披露目になった。それが下の画像。

shinobi_03

畳と襖(ふすま)で構成された純度100%の和室である。もちろん、「こういう内装もできますよ」という一例にすぎないのだが、しかし、一例にしては、あまりにも贅沢 !これまでも、和室仕様のキャンピングカーがいくつか提案されたことはあったが、これほどまでに緻密に仕上げられた和室キャンパーというのは例を見ない。

「これはもうビルダーの仕事ではないでしょう」と、この「しのび」の内装について語ったのは、NTBの江田会長。

日本特種ボディー(NTB)江田会長
日本特種ボディー(NTB)江田会長

「家具はすべて組子(くみこ)技術を持った専門の建具屋が担当してくれました」という。“組子” とは、クギを使わず、細く引き割った木に、溝・穴加工を施して少しずつ組み上げていく日本の伝統技術。0.1mm単位の微調整が要求される繊細な匠(たくみ)のワザを指す。

なぜ、0.1mmの世界のしのぎ合いが要求されるのか。
「この “和室” が、たえず移動するからです」と江田氏。つまり、普通の建築物なら地震でも来ない限り、襖(ふすま)が勝手に開いたり、閉じたりしない。
しかし、絶えず道路を移動していくキャンピングカーの場合、いい加減な採寸で襖などを作ってしまうと、移動中に開いたり閉じたりを繰り返し、騒音のもとになるだけでなく、家具の損傷を早める。

だから、多少の上下動や左右の揺れにはびくともしない扉を作りながら、停車中には、人間の手でスムーズに開け閉めができるようになっていなければならない。
「神技(かみわざ)です」と江田会長は語る。

掘りごたつ仕様にするため床が上がっている
掘りごたつ仕様にするため床が上がっている

なぜ、そんな繊細な技術が要求される和室にこだわったのか。江田氏はこう答える。
「一つには、日本人がほんとうにくつろげる空間というものを実現してみたかったんです」
今の社会では、個人の住宅にも椅子・テーブルの生活習慣が浸透し、日本人の多くが洋式スタイルになじむようになった。しかし、それではなぜ日本人は、和風旅館に泊まるとくつろげるのか。
「それは、日本人の生活習慣のなかに、畳の上に寝っ転がったときに本当にのんびりできるという300年近い伝統があるからです」と江田氏はいう。

そして、そういう生活習慣に、今や訪日外国人観光客がなじみ始めている。日本にやってくる欧米の観光客がいちばん喜ぶのは、和風旅館。そこで、畳の上にあぐらをかき、そのまま布団に寝転がるという、自分たちが経験してこなかったライフスタイルを楽しむようになってきている。
「そう考えると、和室空間というものが今やグローバルスタンダードになりつつあるのではないでしょうか」そう語る江田会長の談話を聞いていると、キャンピングカーの内装デザインに新しいトレンドが生まれてきたようにも感じる。

持てる技術を投入した室内

Be-cam専用クーラーの「アイクール」
Be-cam専用クーラーの「アイクール」

この「しのび」の和室仕様。快適装備も、これまでのキャンピングカーとは一線を画している。
たとえば、暖房などもFFヒーターとオンドルの二本立て。冷えた車内を効率よく温めるときにだけにはFFヒーターを使う。
しかし、FFヒーターの使いすぎは車内の乾燥も早め、女性の肌も荒らしかねない。
そこで、ある程度温まってきたら、ハイドロニックでお湯を沸かすオンドルに切り替えて、部屋全体を優しく温め、快適な室内温度を保つ。掘りごたつ仕様にすれば、足元にも温風のダクトが回っているので、体全体がほんわりと温まる。

もちろん夏場の冷房対策も万全。Be-camに搭載されている専用クーラーの「アイクール」がフル稼働。12V190アンペアのサブバッテリーが4個。さらに、12V100アンペアのバッテリーが4個。2系統に分かれた8個のバッテリーが準備されているので、4泊5日分くらいのエアコン駆動時間が確保できる。

全部で8個のサブバッテリーを搭載
全部で8個のサブバッテリーを搭載

「とにかく、内装の仕上げには、たいへんな技術を投入してしまいました」と江田会長は苦笑い。
「しかし、見る人が見ると、そうとうなこだわりを持って仕上げられた車であることがすぐに分かるはず。そういう方は、“このレベルの技術を持った車が作れるのならどんなオーダーでも任せられるだろう” と判断してくださると思います。ここまで仕上げたのも、私たちの技術力を見てもらうデモ車だと思っているからです」

現行の仕様で、お値段は1,850万円。キャンピングカーとしては「高い」と感じる人もいるかもしれない。
しかし、組子技術を持った専門職人が造形した和室が、そのまま快適な移動空間になるというマジックを考えると、これはとってもリーズナブルな価格設定であるのかもしれない。

WRITER PROFILE
町田厚成
町田厚成 (まちだ・あつなり)

1950年東京生まれ。 1976年よりトヨタ自動車広報誌『モーターエイジ』の編集者として活躍。自動車評論家の徳大寺有恒著 『ダンディートーク (Ⅰ・Ⅱ)』ほか各界著名人の著作の編集に携わる。 1993年『全国キャンプ場ガイド』の編集長に就任。1994年より『RV&キャンピングカーガイド(後のキャンピングカースーパーガイド)』の編集長を兼任。著書に『キャンピングカーをつくる30人の男たち』。現キャンピングカーライター。

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