「レクビィ」は、キャンピングカー業界を代表するバンコンメーカーである。そのことに対して、業界で異論を唱える人はいないはずだ。そして、この業界を代表するということは、すなわち “日本を代表する” バンコンメーカーであることを意味する。
では、なぜこの会社のバンコンが、それほどの存在感を獲得することになったのか。
もちろん同社には歴史がある。1984年の創業だから、社歴としては今年(2018年)で34年という年月の重みを背負っている。扱う車種も多い。
一時、20車以上のラインナップを抱えていたものの、このほど各車の派生バージョンを統合し、車種的特徴・価格帯・車格などのセグメントを明確にして種類整理を行ったが、それでも定番車種は10車を超える。
このように、レクビィは、その歴史の重みや車種構成の豊富さにおいて、現在どこのバンコンメーカーも追いつけない不動の地位を確立している。
しかし、このメーカーの評価すべきところは、そこだけではない。「哲学」を持っていることだ。
すなわち、現在の日本のマーケットには、どういうバンコンがふさわしいのか。ユーザーに、未来のキャンピングカーライフを託せるのは、どういうバンコンか。人間の幸せを実現できるのは、どういうバンコンか。そもそも、「バンコン」とは何か?
それらをひっくるめて語れる「バンコン哲学」をこの会社は持っている。
今回は、同社の開発思想を端的に表現している「シャングリラⅡ」、「ファイブスター」、「カントリークラブ」といった上級モデルを中心に、レクビィが築き上げてきたバンコン哲学を開発者の増田浩一代表から聞くことができた。
聞き手:キャンピングカーライター 町田厚成
バンコンにトイレルームは必要か?
【町田】現在のレクビィさんの品揃えは、そうとうワイドレンジになっていて、2人旅用からファミリーユースまで、アウトドア志向の強いものから街乗りを得意とするものまで。さらに軽キャンピングカーまでラインナップに加わえられており、死角というものがありません。
価格帯も緻密に計算されていて、経済的なゆとりを持ったシニア層向けのものもあれば、子育て中におカネのかかるヤングファミリーでも買えそうなものまで揃っている。
しかし、High-end(最高級)に位置付けられている「シャングリラⅡ」、および、Premium(高級)というクラスにセグメントされている「カントリークラブ」と「ファイブスター」には、共通のものがありますよね。具体的にいうと、防水加工を施したトイレルームです。こういうバンコンは、かつてはよく見かけましたが、今では非常に珍しい部類に入ります。
逆にいうと、そこにレクビィさんのこだわりがある。「こだわり」というのは、“思想” のことですから、まずそこからお話をうかがいたいんですが。
【増田】キャンピングカーのことを、よく「動く家」などと表現することがありますよね。確かに、キャンピングカーには、普通の家のようにベッドがある。コンロも水道もある。照明もあれば、テレビを搭載したものもある。
だから、アメリカなどでは充実したライフラインを整備した車両を「モーターホーム」と呼んでいます。
そこで、気づいてほしいのは、家ならばみなトイレがあるということです。トイレのない家はない。キャンピングカーも「家」ならば、トイレを持っていることのほうが自然だと思うんですよね。
【町田】確かにそうなんですが、バンコンはキャブコンよりも車内が狭いので、トイレルームに場所を取られるくらいなら、ベッドを広げてほしいなどという声もあるんではないですか?
また、国産車の場合はカセットトイレにせよ、ポータブルトイレにせよ、後始末するのはオーナーですよね。それが嫌だから「トイレはあっても使わない」とか、「トイレは要らない」という声も多くはありませんか?
【増田】確かに多いです。しかし、こういうトイレスペースを持つ車を買う方は、みなさんその便利さが分かっているんですよ。「トイレ室があるからこの車に決めた」という人もけっこういらっしゃいます。
「日本は道の駅やサービスエリアにトイレがあるので、キャンピングカーには必要ない」という意見もありますけれど、実際、冬の雨の降っている夜に、靴を履いて、傘をさして、暗い夜道をトイレまで行くのは辛いと思います。年をとれば、夜中にトイレで起きる頻度も高くなりますし、ましてや小さな子供がいれば、深夜にその子をトイレまで歩かせるのはさらに心配。
私は、そのような「トイレのないことの面倒くささ」を知っているので、キャンピングカーにはトイレが必需品だと思っているんですね。
もちろん、そういうふうには思わないユーザーさんもいらっしゃるでしょうから、私どものラインナップでは、トイレのないキャンピングカーもたくさん用意しています。
【町田】なるほど。実は、私もトイレを使う人間ですから、トイレのありがたみはよく分かっています。だから、「使った後の後始末が嫌だ」というのは使う前の話でしかないと思います。一度使ってしまうと、もう何の抵抗もないですよね。
【増田】そうですね。そして、トイレを使うなら「個室」であることが条件ですよね。いくら仲のよい夫婦だといっても、そのうちの1人がカーテンで仕切ったスペースで用を足しているというのは、どちらも気まずいものです。だからトイレを付けるならば完全に密閉された個室が必要となるし、その個室も掃除のことを考えれば、防水加工されている方がベターだと思います。
フロアや壁が防水になっていれば、散歩から帰ってきたペットの足を洗うこともできますし、海水浴キャンプなどに使ったときは、濡れた海水着などをとりあえず放り込んでおくこともできます。
【町田】これは個人的な体験ですが、夫婦の2人旅でも1週間や10日ぐらいなら、同じ空間で顔を見つめ合っていても何も問題はおきない。しかし、さすがに2週間を超えて、3週間目ぐらいに入ると、いくら仲のよい夫婦だといっても、同じキャンピングカーの中でずっと寝泊まりしていると、だんだん息が詰まってくるんですよ。
そういうときに、個室があると、「ちょっとトイレタイム」などといって、そこに2~3分こもるだけで、息が抜けるんですね。つまり、長旅になると、同伴者の視線から逃れられるエリアの存在がものすごく重要になってくる。
また、そういう空間を持っているキャンピングカーなら、別に個室に入らなくても、「いざとなったら気分転換できるスペースがある」と想像するだけで、気分が楽になる。だからトイレスペースというのは、実用的な面だけでなく、心理的にも有用な場所だと思っています。
【増田】まさに、心を豊かにする “贅沢空間” ということですよね。
【町田】実際にキャンピングカーのトイレの装着率って、高いのでしょうか?
【増田】日本RV協会が発行している一番新しい「キャンピングカー白書」によると、キャンピングカーのトイレの装着率というのは、60.5%ということですから、ちょうど6割ですね。ただ、この数値は携帯式のポータブルトイレを含んでの数ですから、個室を前提としたカセットトイレの装着率となると、31.3%となります。
それでも、軽キャンピングカーやタウンエースのキャンピングカーのような、最初からトイレスペースが取りづらいキャンピングカーが多いことを考えると、かなりの普及率だと思います。
選ばれた2人だけの楽園「シャングリラⅡ」
【町田】その個室トイレのデザインですけれど、シャングリラⅡの造形は秀逸ですよね。鏡をしつらえた化粧台があって、その椅子を引き出すと、その奥がポータブルトイレの格納場所になっている。
そして反対側には、顔を洗えるようなシンクが設定されている。いわゆる “パウダールーム” の発想ですよね。
バンコンというサイズ的な制約がある車両で、これほど女性のことを考えたデザインが追求された車種はほとんどなかったと思います。
【増田】あの車は、完全に2人旅用に特化したから、それができたんですね。
【町田】そういった意味で、同じトイレ室を持つ「ファイブスター」や「カントリークラブ」よりも、ターゲットユーザーは限定されてしまいますが、逆にいうと、コンセプトそのものが “ピュア” であると思います。
つまり、もうこの車は、聖書に出てくる「アダムとイブのエデンの園だぞ」と(笑)。楽園にいることを許されたたった2人のためのパラダイス。だから、ネーミングも「シャングリラ(聖地・楽園)」になっているわけでしょ?
【増田】まぁ、そうですね(笑)。そこまでネーミングに強くこだわるつもりはないのですが、確かに、祝福された2人 … 何も夫婦じゃなくてもいいんですよ(笑)、恋人同士でも親子でもいいんですが、2人が過ごすときの最高の贅沢空間というものをデザインしてみたかったんですね。
【町田】それを実現させるための様々なアイテムが満載されている車ですよね。まず特大モニターのテレビがすごく存在感をアピールしている。
【増田】ええ。地デジチューナー内蔵の24インチTVモニターを付けまして、ブルーレイやDVDプレイヤーも美しい音色でお楽しみいただけるように、5.1chのハイファイサラウンドシステムを採り入れています。
【町田】ちょっとしたプライベートシアタールームですね。これだけ本格的な映像・音響設備を導入した狙いは、どこにあったのですか?
【増田】やっぱりいい映画を見たり、いい音楽を聞いたりすると、旅そのものが豊かになると思っているんです。
映画や音楽って、人間の想像力を刺激するアートじゃないですか。そういうものに触れると精神が活性化して、窓の外のありふれた景色を見ても外国に行ったような気分になってくる。
キャンピングカー旅行中のそういう心の刺激はやっぱり大事で、それが2人だけの空間を充実したものに変えると思っているんですよ。
【町田】ああ、すごいな。お客さんの要望に従って、オーディオルームを実現した特注キャンピングカーは珍しくないのかもしれませんが、定番商品で、ここまで意識的に映像・音響システムをアピールしたものというのはなかなかないですよね。
【増田】まぁ、自分の趣味も多少入っているんですけどね(笑)。
【町田】快適な住環境を保証するもののひとつとして、空調は欠かせないものですけれど、この車は、他の車ではオプション設定になっている家庭用エアコンが最初から標準装備になっているところが贅沢です。
【増田】なにしろ、アダムとイブの楽園ですからね(笑)。「楽園」には真夏の暑さも、冬の寒さもないから(笑)。
【町田】エアコンの取り付け位置も理想的。
【増田】はい。トヨタ純正のスーパーハイルーフを使っていますから、キッチンキャビネット上という、あまり邪魔にならない場所にエアコンを設置することができました。
【町田】三角型テーブルというのもすごく斬新なデザインだと思いましたが、でも、けっきょくベッドスペースは、このテーブルのところしかないんですよね?
【増田】でもベッドメイクはとても簡単なんです。テーブルの足が昇降式になっていますから、寝るときはこのテーブルをそのまま下にさげ、テレビ台の受けとの間にマットをはめ込めば、もうそれで1830×1530mmの特大ベッドが完成します。
イージーベッドメイキングの思想
【町田】「ベッドメイクの簡単さ」というのは、どのバンコンにおいても、レクビィさんがいちばん神経を使われているところですよね。「カントリークラブ」も「ファイブイスター」も同じく “イージーベッドメイキング” が売りですよね。
【増田】ほんとうはキャブコンのバンクベッドのような、ベッドメイクしなくても寝られるキャンピングカーがいちばんいいのでしょうけれど、居住空間が限られたバンコンの場合は、どうしてもダイネットとベッドを兼用しなければならないことが多い。
そうなれば、ダイネットからベッドへの転換は、簡単であれば簡単なほどいい。あるいはもう少し構造を工夫して、ダイネットを崩さなくてもベッドが使えるようにすればなおいい。
カントリークラブの横座りソファー兼2段ベッドなどは、そういう発想でつくっています。ダイネット部分を展開すれば、広いフロアベッドにもなりますけれど、寝る人数が少ないときは、ダイネットを残したまま、2段ベッドだけ展開しても2人寝られるようになっています。
【町田】「ファイブスター」も似たようなコンセプトですよね。大人数のファミリーで使うときは、ダイネットもベッド展開しなければなりませんけれど、夫婦2人で使うときは、リヤの2段ベッドだけでも寝られるようになっている。
構造だけ取り上げると、さりげないレイアウトに見えるかもしれないけれど、ここまでたどり着くには、いろいろなバンコンをつくり続けてきたノウハウの蓄積がモノを言っているように思えます。
歴史が長いということは、そういうことであって、けっきょく「このスタイルがいちばん使いやすかったよ」というユーザーの声の厚みが反映されるということですよね。
【増田】いやぁ、そのとおりです。それは単純にレイアウトの問題だけに還元できることではないんですね。お客様は、すごく微妙なところまで指摘してくれますので、ソファーのミリ単位の寸法、座面の2~3度の角度、シートのちょっとした沈み心地といった微妙なところにまで手を抜けないんです。だから、長年乗って来られたお客様の声というのは、ほんとうにありがたいものだと思っています。
バンコンは汎用性が高いことが最大のメリット
【町田】突然かもしれないですけれど、「バンコンの魅力」って、あらためていうと、どういうところにあるとお考えですか?
【増田】一言でいうと、「汎用性が高い」ということでしょうね。どんな用途にも使える。
キャブコンとの比較でいえば、キャブコンは確かに装備内容も充実しているし、設計の自由度が高いから、室内空間を効率よく使い切るデザインも追求できるし、それが室内の快適性をも約束します。
しかし、そのことで、逆に用途が限定されてしまうということもありますよね。ライトエースやボンゴベースのライトキャブコンならいざしらず、やはりカムロードクラスになると、通勤や買い物といった日常使いをするにはちょっと大げさ過ぎるし、第一、駐車スペースを選ぶときに支障が出る場合もあります。
それに対して、バンコンはオートキャンプのようなアウトドアの需要も満たすし、長距離旅行にも使える。さらには、通勤や買い物などといった日常使いが気楽にできる。
【町田】つまり、マルチユースが可能になるということですよね。それが日本のバンコンの特徴かもしれませんが、ヨーロッパのバンコンはどうなんでしょう? 日本のバンコンのように、通勤や買い物の足として使っている姿をあまり想像できないんですが。
【増田】それはやっぱりサイズの問題ではないでしょうか。現在ヨーロッパではフィアット・デュカトベースのバンコンが非常に増えていますけれど、フィアットに限らず、ベンツにしても、プジョーにしても、ワーゲンにしても、みな日本のハイエースやキャラバンよりも車体が大きい。そうなると、キャンプや旅行のツール以外の使い道というのをちょっと考えにくい。
逆にいうと、ヨーロッパのバンコンは、キャブコンの役目も果たしてしまうんですよ。つまり、車体が大きいから、日本のバンコンのように、家具同士の “スペース取り戦争” が起こらないんですね。
だから、フロアプランがみな似たものになってくる。基本的に運転席・助手席が回転して、セカンドシートと向かい合う形でダイネットを構成し、スライドドアのすぐ横がキッチン。そしてリヤは固定ダブルベッドというスタイルです。
【町田】設計者は楽でいいですね(笑)。
【増田】そうですね(笑)。それに比べると、日本のバンコンは、ヨーロッパ車よりも居住空間が狭いから、開発者は、装備類を詰め込むときに、「何かを採用するために何かを捨てる」という選択を常に迫られることになるんです。
【町田】ああ、そうか。開発者が何を優先したいかということで、装備類も異なり、レイアウトも変わってくると … 。
【増田】それが日本のバンコンの個性になっているけれど、開発者はみなきりきりと胃を痛めていると思いますよ(笑)。
レクビィのバンコン開発に反映されている日本文化
【町田】ヨーロッパでは、同じレイアウトのままでもユーザーがずっと満足しているというのに、なぜ、日本のマーケットは新しいものを求めたがるのでしょう?
【増田】そこには、日本人の嗜好の問題も絡むかもしれないですね。
なにしろ日本人は、目新しいものが好き。実用的な商品を買う場合であっても、そこに「時代感覚が盛り込まれているかどうか」、「心が弾むような新しいギミックが投入されているかどうか」、「色使いや材質感などにトレンドが反映されているかどうか」。そういう目で商品を眺める習慣があるんですね。
だから、「冷やし中華」や「鍋料理」じゃないけれど、日本には季節商品というものがある。日本は四季の豊かな国ですから、季節の移り変わりを商品を選択するときにも楽しもうとする。
【町田】ああ、日本人は感受性が繊細ですからね。
【増田】だから、キャンピングカーを企画するときも、開発者は細かいところにまで神経をつかう(笑)。
レクビィのバンコンでは、流し台に陶器を使っているものもあるんです。それは私たちの会社が陶器の産地として有名な瀬戸市にあるということも関係しているんですが、やはり、少しでも日本人の感性に訴えるものを盛り込んでいきたいという気持ちから来たものなんですね。
そんなシンクを使うなんて、日本だけかもしれない(笑)。外国ではシンクはシンク。みな同じステンレス製で満足しているわけだから。
【町田】なるほどね。いま訪日外国人観光客が非常に増えてきて、みな日本文化を「クールジャパン」という言葉で楽しんでいますが、そういう評価が生まれてくる背景が今のお話でよく分かりました。
つまり、普通だったらステンレスのシンクで済ませてしまうところに陶器を使うといった例が示すように、日本の文化には、日本人技術者たちの細かい心配りが反映されているからなんですね。
いやぁ、今日はよい勉強になりました。