国産コンパクトキャンパーから高級輸入モーターホームまで
愛知県の「ホワイトハウス」といえば、プジョー、シトロエン、BMW、フィアット、アルファロメオ、ボルボ、ジャガー、ランドローバー、アウディなど、主にヨーロッパ系乗用車・スポーツカーを扱う大手ディーラーとして知られている。
しかし、キャンピングカーファンにとって「ホワイトハウス」といえば、コンパクトキャンパーの分野において数々の画期的なモデルを開発してきたユニークなキャンピングカービルダーという印象の方が強いはずだ。
この会社のオリジナルキャンピングカー開発には、他社の意表を突く鋭いアイデアが秘められていることが多く、そのアイデアの力で日本のキャンピングカー業界を震撼させたことも一度や二度ではなかった。
もちろん輸入キャンパーの扱いにおいても、同社は数々の伝説を築きあげ、かつては欧州キャンピングカーの超人気ブランド「ウエストファリア」を手掛けて名声を確立。今は世界のキャンピングカーの最高峰を極めるハイマー社の正規ディーラーを務めている。
国産キャンピングカーから、欧州の名門モーターホームまで幅広いキャンピングカーを扱っているホワイトハウスとは、いったいどういう企業なのか。同社のキャンピングカー事業部を統括する酒井裕二郎部長に取材することができた。
聞き手:キャンピングカーライター 町田厚成
目次
輸入キャンピングカーのエッセンスを国産小型車に移植
【町田】ホワイトハウスさんが、今のキャンパー部門を設立されたのは、いったいどのくらい前だったんですか?
【酒井】1988年の設立ですから、今からだいたい30年くらい前ということになります。私どもグループの現在の代表取締役である木村文夫がアメリアでウエストファリアのワーゲンキャンパーを見つけて気に入ってしまい、ウエストファリアと契約を交わして輸入するようになったことがキャンパー事業部のスタートですね。
【町田】御社のワーゲンキャンパーの人気が非常に高く、当時よく売れていたことは記憶しています。それと平行して国産キャンパーの開発を進めるようになったのはいつ頃だったのでしょう?
【酒井】1998年ですね。当時わが社は輸入車と平行してホンダのディーラーもやっていたのですが、そのホンダさんがステップワゴンを96年に発売し、その2年後に、今度は「ホンダ特装」さんがそのポップアップルーフ仕様を開発したんです。それを見て、うちの木村が “新しい遊びの車” を提案しようと思ったようです。結局これが輸入キャンパーメインの体制から国産キャンパーに主軸を移すきっかけになりました。
【町田】その頃、酒井さんはまだホワイトハウスに入社していらっしゃらなかったんですか?
【酒井】そうです。もともと私は芸術大学で造形を学んでいたんです。だから在学中に、すでに将来はキャンピングカーメーカーに入って造形と設計を担当したいという気持ちを持っていました。
そのため、愛知県にあった別の国産キャンピングカーメーカーに最初は勤めたんです。その会社でFRPのマスターモデルを手掛けていたときに、ホワイトハウスの木村代表と知り合うことになったわけですね。
その後、その会社を辞めることになったときに、その情報を聞きつけた木村から、すぐに「ホワイトハウスに入ってほしい」という電話が入り、それでお世話いただくことになりました。
【町田】酒井さんが関わるようになった頃、ホワイトハウスさんはどのようなお仕事をされていたんですか?
【酒井】軽自動車のアクティをベースに軽キャンパーを開発していました。これも市場ではなかなか好評でした。このアクティとステップワゴンの二本柱がそろったことで「コンパクトキャンパーのホワイトハウス」というブランドイメージが生まれたように思います。
もちろん今はハイエースのバンコンも製作していますし、キャブコン開発も経験しています。
でも、私たちの基礎体力というのは、コンパクトキャンパーを続けてきたからこそ培われてきたという気もするんですね。
というのは、コンパクトなものというのは意外と面倒くさいんですよ。サイズは小さくても私どものベースは乗用車ですから、箱型のがらんどうとは違うんですね。すでに乗用車として完成されたところに家具などを組み込んでいくわけですから、見た目の整合性も要求されるため、細かいところに神経はつかう。
それがゆえに、かえって私たちはノウハウを蓄積することができたと思っています。
【町田】そういうホワイトハウスさんの技術蓄積の成果が実ったのが、たとえば2013年に発表された「ツアラー600L」のようなキャブコンだったと思いますが、あれなど、これまでのハイエースをボディカットしたものとは一線を画す本格的ヨーロッパ調スタイルの外装と内装を実現されてびっくりした記憶があります。
【酒井】ありがとうございます。あれも突然世に問うたモデルだと思われ勝ちですが、実は、私たちがずっと大事にしてきたコンパクトキャンパーづくりで培ってきた設計思想の延長線にあるものだと思っています。
輸入キャンパーと国産キャンパーの製造工程における最大の違い
【町田】ツアラーは、ヨーロッパ的なテイストが強烈に立ち上ってくる車でしたが、キャンピングカーづくりにおけるヨーロッパと日本の最大の違いは何だと思われますか。
【酒井】まず製造工程の違いからいえば、家具作りなどでも、日本はわりと木工に頼る傾向があります。それは製造規模が小さいためにそれで間に合うからなんですね。比較的小さな工場で、家族だけで丁寧に木工家具をつくり込んでいく職人気質のビルダーさんが多いのが日本の現状です。
しかし、ヨーロッパではそれでは間に合わない。なにしろマーケットが大陸全土に広がっているわけですから、製造工程も合理的に整理してスケールメリットを生かすような工法を導入し、製品の均質性を保ちながらコストを落としている。
日本の業界もそうしていかないと、たとえば乗用車メーカーさんのような我々の製造規模をはるかに超える大手さんが参入してきたときには一気に淘汰されることもあり得ると思うんですよ。
【町田】ヨーロッパではハイマーグループとかトリガノグループといった形で、大ビルダーが小さなビルダーを吸収するような形で統合が進んでいますものね。アメリカもそうなっています。
【酒井】そうですね。今後日本もそういう方向に進む可能性があるでしょうね。産業として発展していくためには、それは避けては通れない道ではないかという気もします。
【町田】今ヨーロッパのメーカーは木工家具に頼らないというお話がありましたが、それでは木工の代りにどういう素材を使っているんですか?
【酒井】たとえばABS樹脂をはじめとしたプラスチック樹脂やアルミ製のハニカム素材などです。これらで成形したものを手際よくボルトオンで装着していく。
【町田】そういう製法のメリットは?
【酒井】けっきょく、個体差が出ないんですね。木工家具の場合は、鍛錬を積んだ技術者や職人が気持を込めて作るにはとても良い製品に仕上がりますが、やはり作る人によって、出来上がった製品にバラつきが出てしまう。
しかし、ABS樹脂などで成形していけば、そのバラつきが出ない。特にフロント周りのダッシュボード周辺などはもうヨーロッパでは20年ぐらいまえからそういう製法を採り入れています。
そのために、わが社でも「プレシャス」のようなバンコンでは、ABS樹脂の家具を導入して、将来への布石を打っているわけです。
カングーPOPの開発で見えてきたこと
【町田】今のABS樹脂の家具を採り入れたバンコンの話もそうですが、ホワイトハウスさんを見ていると、常に既成のキャンピングカーづくりに捉われないモノづくりの姿勢がうかがえます。たとえば、カングーをベースにしたキャンピングカー開発など、今までのユーザー像とは異なるターゲットを意識していらっしゃいますよね。実際に、お客様の反応はいかがでしたか?
【酒井】デビューさせてからほぼ1年経ちましたが、ある意味、狙い通りでした。つまり、最初からキャンピングカーらしい車を求めている方々には “おもちゃ” のようなものにしか見えないらしいんですが、逆に、熱烈なカングーファンには「こういう(キャンピングカー風の)カングーもあるのか!」という驚きを与えたようです。
そのようなカングーに特別の思いを持っているファン層というのは、これまでの私たちのマーケティングではすくいきれなかった人たちなんですよ。しかし、そこに大きな鉱脈があることを発見しました。
【町田】なるほど。ホワイトハウスさんの製品開発思想というのは、常に旺盛なチャレンジ精神に貫かれているということがよく分かる例ですね。「ジャパンキャンピングカーショー2018」でデビューした「ホンダNボックスキャンパー ネオ」もそういう車ですよね。
軽自動車という非常に狭い空間のなかで、運転席が回転するシートを開発してしまう。ハイエースのフロントシートが回転する機構にもずいぶん驚かされましたが、「Nボックスキャンパー ネオ」では、さらに狭い空間でそれを可能にしている。あの車に接したときは、まるでマジックショーでも見ているような気持でした。
【酒井】ありがとうございます。おっしゃるように、軽自動車の狭い空間で回転シートを設計するというのは、気の遠くなるような苦労の連続でした。現在特許を出願中なので、機構的な解説は控えさせてもらいますが、私どもは、こういう他社さんが面倒くさがるようなところを拾い上げることで、現在の地位を確立してきたという自負はあります。
ハイエースのフロントウィンドウ周りを飾る蛇腹式カーテンの開発
【町田】用品開発の部門でも、また新しい商品を手掛けられましたね。このほどハイエースのフロントカーテンに蛇腹式のものを採用されました。カーテンを格納するときに端からピラーのなかに折りたたまれるように収まっていくという機構で、そのため操作性もずいぶんよくなったし、見た目もすっきりしました。このパーツはどういう名称なんですか?
【酒井】これは、ヨーロッパのキャンピングカーでは90%のシェアを持つ「レミス」という会社にお願いして、ハイエース用に共同開発した機構なんです。「ウィンドウ スマートシェード」といいます。
前からチャレンジしてみたかったんですが、いざやってみると、こんなにお洒落な雰囲気が出るとは思わなかった(笑)。近日発売予定ですが、もうハイエースをつくっていらっしゃるビルダーさんからそうとう注目をいただいております。
【町田】そこがホワイトハウスさんのすごいところですね。こういう業界の他社さんにとってはニッチに見えるところに目を向けて、いつの間にかそれをメインストリームにまで持っていってしまう。そういう発想はどこから出てくるんですか?
【酒井】先ほど、欧米のキャンピングカー業界が統合再編成を繰り返してグループ化しているというお話を差し上げましたが、日本にもそういう動きが始まるかもしれないんですよ。
そうなった場合、特徴の乏しい小さい会社が大きな会社に呑み込まれていくのは自然の流れだと思うんです。
しかし、独自性のある技術や独自性のある商品開発を行っている会社は、会社の規模とは関係なく生き延びて成長していく。
われわれが目指しているのは、企業の統廃合やグループ化の時代が来たとしても、その動向に左右されることなく、「ホワイトハウス」というブランド力を維持する技術力を磨いていくことだと思っています。