驚異の足回り「101 T-SR」の秘密をトイファクトリー 藤井昭文代表に聞く

メーカー・販売店インタビュー
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2月初旬に開かれた「ジャパンキャンピングカーショー2018」の会場で、タイヤを外し、むき出しの足回りを展示した1台のハイエースがあった。
トイファクトリーのブースの隅に展示された「101 T-SR」という車である。

この日のトイブースの主役は、開催日に合わせて仕上げられた新型バスコン「セブンシーズ」であった。
ヨーロッパから来たレンタカー会社のトップの人間が、これを見て、「このクオリティーを満たしたヨーロッパ仕様の車があったら3,000台買ってもいい」と絶賛したほど、セブンシーズは会場全体のなかでも抜きんでた存在感を示していた。
しかし、そのセブンシーズのクオリティーの高さに触れて賞賛の声を惜しまなかった一般見学者とは別に、乗用車メーカーの技術者レベルの人たちが熱い視線を寄せたのが、タイヤを外されてリフトアップされたハイエース「101 T-SR」だったのである。

この展示車のどこが、玄人筋の注目を集めたのか。
車の下回りの仕上げが、“ビルダーレベル” を超えていたからである。
展示車両の前に置かれたインフォメーションによると、次のような内容が表示されていた。

  • フロント強化スタビライザー
  • リヤ強化スタビライザー
  • ショックアブソーバー
  • フロアウィングスポイラー
  • 強化ブレーキパッド
  • 強化ブレーキローター

ここで注目したいのは、「フロアウィングスポイラー」というところだ。
スタビライザーやショックアブソーバーなどで足回りを強化しているキャンピングカーなら(その効果は別として)、さほど珍しくはない。しかし、「フロアウィングスポイラー」ともなると、そうとう車両知識のあるスタッフがいたとしても、ビルダーレベルでは、その形状や素材、取り付け角度、そして装着効果などを計算しきれない。

つまり、トイファクトリーの「101 T-SR」という車両は、同社が “ビルダーを超えた” ことを示唆する展示物だったのだ。
国産キャンピングカーメーカーの技術力や企業戦略を比較したとき、もうトイファクトリーという会社は並みいるライバルメーカーを振り切って、すでに別次元のフェーズを走り始めているのではないか?
同社の代表を務める藤井昭文氏の話を聞いていると、それをはっきりと感じさせるような力がみなぎっていた。

聞き手:キャンピングカーライター 町田厚成

トイファクトリー 藤井昭文代表
トイファクトリー 藤井昭文代表

キャンピングカーにも走る楽しみを

101 T-SR ポスター
101 T-SR ポスター

【町田】まずお尋ねしたいのは、今回の「101 T-SR」という仕様は何を狙って開発されたものなのでしょうか?

【藤井】これはですね、ハイエースベースのキャンピングカーにありがちな横揺れなどを防ぎ、しっかりした走行安定性を確保するために企画されたものです。

【町田】でも、基本的にトラックシャシーにシェルを結合させるキャブコンに比べると、完成車のボディをそのまま使ったバンコンは、すでに走行安定性がしっかり確保されているはずですよね。

【藤井】そうなんですが、やはりわれわれキャンピングカーメーカーが主に使っているハイエース特装車も、基本的には商用車なんです。最初から乗用を意図して設計されたものとは違い、どうしても安定性や乗り心地で劣る部分が残るんですね。そこに不満を持たれるお客様はけっこういらっしゃいます。

【町田】確かにバンベースの場合は、荷物の積載を意図して、リヤの足回りなどはそうとう硬くセッティングされていますものね。

【藤井】はい。そのため、乗り心地面で不満を感じるお客様はどうしてもいらっしゃいます。
また、お客様のなかにはAE86やポルシェなどのスポーツカーに乗っていらっしゃる方もいます。そういう方々はやはりご自分の愛車の操作感覚と比較されますから、キャンピングカーにおいても、もう少し「走る楽しみ」が欲しいとおっしゃいます。
この「101 T-SR」はそういうような、日頃スポーツカーを運転される方でも「ドライビングプレジャー」を満喫できるような車を目指して開発したものなんです。

【町田】その開発というのは、トイファクトリーさんのスタッフが中心となって進められたものなのですか?

【藤井】いいえ。私たちだけではとうてい完成させることはできません。やはり足回りの改造検討を行うというのは、ビルダーレベルの仕事ではないんですよ。シャシーメーカーさんなどの専門家がとことん計算し尽して設計したものですから、われわれが勝手にいじると、狙った効果が得られるどころか、下手をすると危険なものになりかねない。

専門的な風洞実験設備を使ってテスト

トイファクトリー 岐阜本社
トイファクトリー 岐阜本社

【町田】では、どのように開発を進められたのでしょう?

【藤井】足回りの設計やセッティングは、新たにオーリンズさんやカヤバさんの協力を得て共同開発を行い、正式なモデルとして認可を受けました。
また、フロアウィングスポイラー … つまりアンダースポイラーのところはですね、専門メーカーさんの指導を受け、その風洞実験設備などをお借りして、設計しています。

【町田】それはすごい! メーカーメイドということですね。

【藤井】やはり、シャシーを供給してくれる自動車メーカーさんの基準に適合しているものでないかぎり、お客様に信頼性の高い商品をお渡しできないと思っているんですよ。

【町田】キャンパー特装車を供給してもらっているビルダーさんならどこでもそういうサポートを得られるのでしょうか?

【藤井】それはどうでしょうか。私たちの場合は、やはり自動車メーカーさんとのこれまでの信頼関係の蓄積があって可能になったと思っています。

【町田】そのアンダースポイラーの部分というのは、風洞検査を受けなければならないほど設計がシビアなものなんですか?

【藤井】その部分はレーシングカー並みの計算が必要なところなんです。レーシングカーの場合は、スピードが増してきても車体が浮かばないように、各種のスポイラーを付けてダウンフォースを発生させますよね。
つまり、空気抵抗を少なくさせる形状を持ったレーシングカーですら、車体が浮くことを防ぐ対策が必要になるわけです。ましてやキャンピングカーの場合は、小さなタイヤの上に大きな構造物が載っているわけですから、高速走行中、車体の下に風を巻き込むと、不安定に揺れ始めることになります。

101 T-SR フロアウィングスポイラー
101 T-SR フロアウィングスポイラー

【町田】今度採用したフロアウィングスポイラーは、それを防ぐということなんですね?

【藤井】はい。車体の下に巻き込まれてくる風を横に流して、スポイラーの後ろ側に空気密度の薄いところを発生させ、それによってダウンフォースを得るようになっています。
その効果がどれだけ得られるのかというのは、やはり専門的な風洞実験設備を使わないかぎり、正確な数値として把握できないんですね。
なおかつ、実際に運転してみてどうなのか。体感的なテストも大事になります。これに関しては、われわれがインプレッションを行っても、足回りの専門家でないため信ぴょう性に欠けます。そのためこの部分は本職のプロにお願いしています。

レーシングドライバーも試乗してセッティングをアドバイス

トイファクトリー 岐阜本社工場内
トイファクトリー 岐阜本社工場内

【町田】本職のプロとは?

【藤井】自動車メーカーのテストドライバーさんとか、プロのレーシングドライバーさんですね。そういう方々にテストコースやサーキットを走っていただいて、厳しい蛇行運転を試してもらったり、逆バンクのようなところも攻めてもらって、印象をうかがっています。
近日中には、GTレーサーの織戸学さんにもサーキット走行や一般道走行などさまざまなシチュエーションを試してもらうことになっています。自動車メーカーさんですら、キャンパー特装車でそこまでのことはやっていないんですよ。

【町田】すごいなぁ ! そのようなテストを繰り返したこの足回りは、今後トイファクトリーさんの車両にはすべて装着されていくのですか?

【藤井】現在のところ、スタビライザーやショックアブソーバー、ブレーキパッド、ブレーキローターなどはお客様の好みにより、オプションとしてお選びいただけるようにしています。
ただ、スポイラーに関しては、われわれ自身もその効果を十分に体感していますし、安全面においても絶対に装備した方がよいと感じていますから、2018年モデルからは標準仕様にしていくつもりです。
もともと、この「101 T-SR」というのは“車名”ではなく、“チューニングブランド名”なんですね。そのため、今後は「バーデンT-SR」とか、「アルコ―バT-SR」というようなネーミングにして広報していきたいと思っています。

101 T-SR フロント
101 T-SR フロント

【町田】アンダースポイラーを標準仕様にすると、量産化できるシステム構築が必要になりますね。

【藤井】そうするつもりで、スポイラーも量産できるような素材を選んでいます。

【町田】FRPではないんですか?

【藤井】ABS樹脂ですね。ABSもFRPも耐久性ではまったく変わらないんですが、ABSの方がバラツキがなく、量産化に向いています。また、表面をきれいに仕上げられるという特徴もありますね。この部分でも、自動車メーカーさんと同等のクオリティーを追求しています。

キャンピングカーづくりの大転換期がそこまで迫っている

トイファクトリー 本店内
トイファクトリー 本店内

【町田】ハイエースのバンコンといっても、今後ビルダーさんによって、かなりの差が生まれてくるようになりそうですね。トイファクトリーさんがそこまでこだわる理由はいったい何ですか?

【藤井】やはり、自動車メーカーさんをはじめ、さまざまなメーカーさんから協力を得て仕上げたというところに意味があると思っているんですよ。
というのは、キャンピングカー業界の今後のことを考えると、ある程度自動車メーカーさんなどと深い関りを持てるところでないと、今後は生きのびていけないように感じているからなんですね。
確かに、いまキャンピングカー業界はゆるやかながらも右肩上がりの成長を維持しています。しかし、この調子がいつまで続くのか誰も保証できない。むしろ早晩、とてつもない変化が出てきそうな気がします。

【町田】どういうことでしょう?

【藤井】われわれがベース車として使っている車両自体が、いま劇的な転換期を迎えているわけですよ。
EV(電気自動車)化とか、自動運転化ですね。キャンピングカー業界の歴史が始まって以来、今ほど車両自体が変わろうとしている時期を迎えたことはなかったんですね。
この先は、もう自動車メーカー同士の熾烈な戦いのなかで、自動車の機構そのものが秘密だらけになっていく。
そうなると、そういう秘密をキャンピングカービルダーが守ってくれるのかどうか。メーカーの審査基準も厳しくなりますから、もうビルダーだからといって、今までと同じようにベース車を供給してもらえるとは限らなくなると思います。

【町田】恐ろしい話ですね!

【藤井】いま自動車メーカーさん自体が、厳しい国際競争にさらされて必死に戦っていますよね。日本の自動車メーカーさんは、エンジン技術においても、トランスミッション技術においても、世界のどこのメーカーも追いつけないレベルに達しました。
でも、中国などは、従来の自動車づくりではもうトヨタさんをはじめとする日本のメーカーには勝てないと諦め、国策として一気にEV路線にシフトしました。あれなら部品点数が少ないから、中国の自動車産業にも勝機が出てくる。
また、アメリカでもテスラモータースのような自動車づくりのノウハウをまったく持たない会社がEVで急成長しています。
もちろん、そういう新興EVメーカーよりも、安全技術などでは従来の自動車メーカーの方がはるかに進んでいるのですが、世の中のトレンドが「EVの時代だ」ということになると、世論の後押しもEV側にシフトしていきますよね。

【町田】確かに、自動車そのものが大変革期に入ってしまったわけですね。

【藤井】そうなると、今後は自動車メーカーのライバルが家電メーカーだったりすることも起こりうるんですよ。
そういう時代になると、キャンピングカーのベース車もガラッと変わってくる可能性があります。そうなった場合、自動車メーカーの新車開発と歩調を合わせられるくらいの情報共有できるビルダーでないと、生き残れないと感じているんです。

自動ブレーキシステムを搭載したキャンピングカー

トイファクトリー 本店
トイファクトリー 本店

【町田】動力源が電気化するだけでなく、現在のガソリン車そのものもAI 化していますよね。各社が自動運転化を進めている真っ最中で、すでに自動ブレーキなどは当たり前の装備になってきました。乗用車のこういう流れは、キャンピングカーそのものも変えていく可能性があるんですか?

【藤井】今のところ、自動ブレーキなどのシステムを搭載したキャンピングカー専用ベース車というのは、どこのビルダーさんにも供給されていません。
それには理由があって、キャンピングカーの場合は同じベース車でも、ビルダーによって架装重量も異なりますし、家具を配置するバランスも異なります。また、乗車定員や就寝定員も車によってバラバラですし、さらにいえば、メーカーが強度を計算したモノコックボディーをカットしてしまうビルダーさんもいらっしゃる。
こうなってくると、自動ブレーキを作動させるためのセンサーなども、何に焦点を合わせればいいのか絞り切れなくなるんですね。
だから、自動車メーカーさんは、自動ブレーキシステムを載せたベース車をどこのビルダーさんにも供給できないと判断しているはずです。
このあたりは、キャンピングカー業界のモラルが問われるところだと思っているんです。たとえば、ボディーカットという手法は、メーカーさんが綿密に計算して決定したボディ強度を損なう可能性がないとはいえない。だから私たちは、そのような手法でキャンピングカーをつくることはしません。

【町田】なるほど。考えてみれば一理ありますね。

【藤井】しかし、自動車メーカーさんと共同開発できるような車両ならば、自動ブレーキシステムを採用できる可能性は出てくるんですね。
実は、この「101 T-SR」は、トヨタさんの自動ブレーキシステム「トヨタ・セーフティー・センス」を搭載しているんです。つまり、昼夜を問わず、歩行者や他の車両、自転車などの動きを検知して、衝突回避や被害を軽減できるようなシステムを搭載しています。

自動車メーカーと連携強化することのメリット

【町田】お話をうかがっていると、トイさんは自動車メーカーさんとはすごく太いパイプを持っていらっしゃるように感じますが、そのきっかけは何だったのですか?

【藤井】きっかけはいくつもあって、それぞれがジグソーパズルのように次第に埋まっていったわけですが、その過程で、少しずつ自動車メーカーさんの製造ラインではつくらないような特殊な車両の製作を、われわれに任せてもらうことができたんです。 たとえば、アフリカの難民などを支援するための救急回診医療車などですね。なかには、富裕な王族たちや発展途上国の要人たちが乗るVIPカーというものあります。
それらはすべて「メーカー純正車両」という形で出荷され、海外では自動車メーカーのディーラーから保障やメンテナンスが受けられます。

トイファクトリー製作 救急回診医療車(アフリカ向け)
トイファクトリー製作 救急回診医療車(アフリカ向け)

【町田】トイさんは、すでにそういう形で海外進出を果たされていたわけですね。

【藤井】ただ、自動車メーカーさんに信頼されるまでは、ずいぶん厳しい課題をクリアしなければならないときがありました。
配線から家具の仕上げに至るまで、OKが出るまで非常に長い時間を要しています。つまり、キャンピングカービルダーの製作基準をはるかに超える「自動車メーカー基準」というものが設けられていまして、それをパスしないと納品できないんです。

【町田】めちゃめちゃに鍛えられましたね(笑)。

【藤井】いやぁ、ほんとうに鍛えられました。でも、そこから学んだことも大きかったですね。実際の製造過程においても、自働車メーカーのレベルに準じたモノづくりが可能になりましたから。
たとえば、電装ハーネスなどは、自動車メーカーの純正ハーネスと質的に同じものを供給してもらえるようになりました。細かいことかもしれませんが、とても重要なことだと思っています。

フィアット・デュカトもベース車の候補に

トイファクトリー岐阜工場内
トイファクトリー岐阜工場内

【町田】ということは、トイさんの場合は、今後自動車メーカーさんの「特殊車両部門を製造する会社」だと正式に認められる日が来るというわけですね。

【藤井】そうなりたいのですが、それはどうなるか分かりません。ただ、暗に示唆されたことはあります。
実際、自動車メーカー基準をクリアするような車両をいろいろ手掛けているうちに、今では、バンコンに関しても、キャブコンに関しても、ボディづくりのノウハウをそうとう勉強できるようになりました。あとはベースシャシーの供給を待つだけですね。

【町田】ベースシャシーということでは何を考えていらっしゃるんですか。

【藤井】たとえば、フィアット・デュカトも候補ですね。来年にはデュカトのバンベースの車両がデリバリされるという情報もありますから、そうなったら、手掛けてみたいと思っています。
すでに、岐阜の新ショールームも新工場も、外国車ベースにも対応できる規格でつくっています。ショールームの入り口も大型車両の車高に合わせていますし、工場も3.5トン以上の大型車を上げられるようなリフトも配備しています。

フィアット・デュカト(バンボディ 2017年幕張出展)
フィアット・デュカト(バンボディ 2017年幕張出展)

【町田】藤井さんが考えていらっしゃるデュカトの魅力とは何ですか?

【藤井】私は実際にデュカトに2年ほど乗っていたことがあるのですが、初期にはマイナートラブルが出ましたし、今でもそれはあります。しかし、それを抑えてしまえば、もう壊れない。エンジンもスモール化されているにもかかわらず、180馬力もあり、しかもクリーンガスであると。
それにバンベースでも幅があって居住性がいい。走りも安定しているので、安定性の悪い国産キャブコンなどに乗るよりはよっぽど快適です。しかも、海外メーカーさんがサポート体制を組んでくださるわけですから、部品供給やメンテナンスの心配もなくなります。そのため、あのシャシーには期待しているんです。

【町田】なるほど。とにかく楽しみですね。よい話をありがとうございました。

WRITER PROFILE
町田厚成
町田厚成 (まちだ・あつなり)

1950年東京生まれ。 1976年よりトヨタ自動車広報誌『モーターエイジ』の編集者として活躍。自動車評論家の徳大寺有恒著 『ダンディートーク (Ⅰ・Ⅱ)』ほか各界著名人の著作の編集に携わる。 1993年『全国キャンプ場ガイド』の編集長に就任。1994年より『RV&キャンピングカーガイド(後のキャンピングカースーパーガイド)』の編集長を兼任。著書に『キャンピングカーをつくる30人の男たち』。現キャンピングカーライター。

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