現在国産キャブコンバージョンとして絶大な人気を持つジルは5代目で、その装備の充実度、車両全体の完成度の高さは歴代モデルの比ではない進化を遂げている。そしてまた、時代のニーズにより日本の気候に適した家庭用ルームエアコンの標準装備や、ついには大容量リチウムイオンによるサブバッテリーシステムの採用など、もはやスキを見つけるのが難しいほど。
車両サイズも拡大したが、ベース車両のもつキャパシティが増加したため安心度は以前にもまして高くなり、乗用車並みの安全装置も多数用意されその魅力は歴史の長い欧米のモーターホームのレベルに近づき、追い越している部分も見受けられる。
カムロードの登場とともに
‘97年2月に登場した初代は、ボディへのデカールなどもなくスッキリとした外観。フロントフェイスロゴはまだダイナ、車両はナロートレッドモデルだ。ジルファンには緑ジルと呼ばれることも。
ジルの生い立ちを語る上ではずせないのがカムロードの存在。ジルの登場’97年2月にはまだカムロードは登場しておらず正式設定は’97年8月、さらにリヤワイドトレッドが正式登場するのが’98年2月の東京キャンパー&RVショーであった。
日本RV協会を通し生産要望がトヨタに提出されたのが’95年6月頃で、’96年1月にキャンパー用ベース車両の基本仕様が決まり、リヤワイドの試作車が完成したのは’97年2月のことである。
もはや時効だと思われるので話せるが、事前に特別生産されたダイナベースの手作り特設シャシーにキャンピングシェルを架装したのがジル。その登場と同時に待ちに待って新設されたリヤワイドの試作シャシー、これにすぐさまそのシェルは載せられ、トヨタの方でも各種テスト検証、データ採りがされた。もはやジルのために用意されたのがカムロードであると言っても過言ではない当時の状況だった。
左ダイネットという室内レイアウトは現代のジルでも継続されている。欧州パーツの輸入販売を手がけていたこともあり、ヒンジ、ドアノブや各種装備が輸入品で、それまでの国産モデルとは違った雰囲気を作り出していた。
キャビネット類のカラーリングや素材感、丸みを付けたデザイン処理は、当時の欧州車のトレンドを持ち込んだものだった。
派生モデルも次々登場
リヤワイドモデル登場とともにジルは2代目に突入する。当時ナローシャシーとリヤワイドと乗り比べる試乗を行なってみると、明らかにその安定性に違いがあり、価格差以上にリヤワイドシャシーの存在価値の高さにうなずいたものである。
リヤエントランスだからこそできた左ダイネットという配置をくつがえす、フロントエントランスモデルも登場した。
そして’98年8月、ジル初めての派生モデルが登場。それは当時主流となりつつあったフロントエントランス右ダイネットという構成。名称は特になかったが一般的にはジルフロントと呼称。カムロード以外でのシャシーでの展開も試されていた時期ではあったが、いずれも短命に終わっている。
ジルそのものの装備充実度は相変わらずで、バンテック内部的にはなんでも揃っているという意味で“幕の内弁当のような”という表現が聞かれた。
外観にストライプ処理がなされ、フロントフェイスのロゴがカムロードになっている2代目。
エンジンは登場時は3Lという2.8リットルディーゼルエンジンだったが、’99年5月に5Lの3.0リットルに変更になり、少し走行性能の向上が見られた。
セカンドシートにマルチアクションシートを採用し、前向き乗車が可能。室内のデザインはより欧州系トレンドを色濃く反映したものにテーブルトップがメラミン素材というのも時代を感じる。
フルベッド時の就寝定員の多さは、オリジナルのスライド式バンクベッドマットと相まって、ファミリー層に支持された。マットの置き方の工夫で、掘りごたつ状の利用方法が広がってきたのもこの頃。
ジルの装備は凄まじくそれなりに重量もあった。そのためパワー不足と思われることやよりしっかりとした耐荷重のシャシーとしてリヤダブルタイヤのエルフが採用され、ジルクルーズが’99年に登場し最近まで継続した。
カムロードはキャブコンのベースとして定着するも、ユーザー層からはモアパワーの声が強くなっていたが、ターボエンジンが用意されるにはなかなかハードルが高い状況であった。
さらにディーゼルの環境適合の問題により’01年に2.0リットルガソリンエンジンが採用され、パワーの出方はまったく違うものの静かでスムーズな運転フィーリングが購入者たちに強烈にアピールしはじめた。
’02年2月には、マルチアクションシートだったセカンドシートを後ろ向き固定にしたレイアウトのジルフィックスが登場。その背景にはユーザーからの声が強く反映していたが、その思想は現行モデルにも継承されている。
‘03年10月には3代目が登場。このモデルではキャンピングシェル部分のデザインが大幅に変更され、現行モデルにつながる意匠になっている。
サイズ拡大路線への転換
3代目登場まで、全長5mで最大限の居住スペースを追求してきたジルだが、シャシー許容のいっぱいまで車両サイズ拡大を図ったジル520が登場した。
時代の流れとともに、国産キャブコンに求められる要素は多様になってきた。ジルは左ダイネットという揺るぎないレイアウトで健闘していたが、世の中で定番となっていたのはリヤ常設2段ベッドのレイアウト。ダイネット周辺のスペースを確保しつつリヤ常設2段ベッドを実現するためには、全長の拡大は避けて通れなかった。
この大きくなったボディシェルはのちにノーブルを生み出し、さらに後でジルもこのサイズになる。一方5mのボディはその後にコルドシリーズとして進化していくことになる。
520登場で一番目新しかったのは、いまでは国産キャブコンで当たり前になっている家庭用エアコンを装備したこと。これは、それまで採用していた後付けリヤクーラーのメンテンス性や耐久性など技術的な問題を解決するのが根本にはあったが、その使いやすさと高性能さはユーザー層に意識変革をもたらした。
サイズ拡大の一方で、よりコンパクトにというニーズに応え登場したのが480。全幅も抑え、軽量化も計りシャシーはナローボディで実現する手法がとられた。
’15年2月登場した5代目ジルは、5mの壁を突き破りついに5.2mへと進化を遂げる。専用の足回りを持つのもジルの特徴のひとつで、前後バランスや乗り心地に配慮した設計がより顕著になってきた。
サイズ拡大には社内でも相当な葛藤があったようだが、やはりジル本来が持つ導線の確保がその後押しをした。ボディサイズ拡大の分はワイド幅のエントランスドアとそれに続く通路幅の拡大に費やされ、一歩足を踏み入れると誰もが広さを感じられるデザインになったのだ。
この大きな変化は5m以下を求めるユーザーにはコルドシリーズでとの住み分けも明確にし、ジルらしいジルとして再認知されていくことになる。
そして’19年2月、カムロードのマイナーチェンジによりリヤダブルタイヤシャシーが追加され、車両サイズが拡大しても安定走行できる余裕を手に入れてきたのである。
登場以来25年の歴史の中、基本コンセプトはそのままに変化と進化をダイナミックに続けてきたジル。コンセプト、個性がはっきりしているので、実はかなり細かいブラッシュアップや変更点がほぼ毎年繰り返されているもののそれに気づくユーザー層は少ない。
しかしそこで勝ち得てきたのは、日本の環境下で快適な生活を提供する国産キャブコンとしての正常進化、オリジナリティの追求であったように思える。そして国産キャブコンの雄として、今後も変わらず進化を続けていくのは間違いないだろう。