2023年、国内のキャンピングカーマーケットで大きな変革が起こるかもしれません。なぜなら、キャンピングカーのベース車両となるフィアットデュカトが本格的に国内市場へ投入されるからです。
輸入元はステランティスジャパン。ステランティスグループはフランスやイタリアの自動車メーカーグループが出資して設立された多国籍自動車製造メーカーです。その日本法人が窓口となり、正真正銘の本家としてフィアットデュカトが輸入されることになりました。
まだ、国産キャンピングカーとしてのモデルは完成していませんが、これまでのフィアットデュカトをより進化させた車両が輸入されるということで、気になっている人も多いはずです。そこで、実際にクルマに試乗して、その可能性を探ってみました。
目次
空間の広さでキャンピングカーのベース車両としての可能性大
最大の特徴はそのシルエットだと思います。フロントから立ち上がるラインがきれいに後方へ流れ、大きな空間を確保しながらも、圧迫感を感じさせない繊細さがあります。
国内に投入されるモデルは3つあって、そのボディサイズによってL2H2、L3H2、L3H3に分かれています。Lが長さ、Hが高さを表していて、L2が全長5410㎜、L3が5995㎜、H2が全高2525㎜、H3が2765㎜になります。
今回、撮影にステランティスジャパンからお借りしたのは、L2H2の最もコンパクトなモデル。ボディカラーはランザローテグレーというものです。
国内の一般的な駐車場スペースにも収まるサイズで、全長が少し長い、といった印象です。これはキャンピングカーに乗っている人であれば、いつもの感覚ではないでしょうか。
また、輸入車でフィアットデュカトベースのキャンピングカーもたくさんあるので、サイズ感に関しては、それほど違和感を感じることはないと思います。
内部をみてみると、荷室の広さに驚きます。ボディ形状がスクエアのボクシースタイルなので、上部の角まで、しっかりと空間が広がっているので、外観以上に内部が広く感じます。また数値でみてみても、室内高はH2で1970㎜、H3で2210㎜もあります。
ヨーロッパの街角ではフィアットデュカトが荷物を運んでいる光景をよく見かけます。しかも、現地の人は荷物をパンパンに詰め込む傾向があるようで、段ボールを高く積み上げることから、この直立した壁が必須なのかもしれません。
荷室フロアの長さはスペック上の数値で、L2が2960㎜、L3が3540㎜となっています。車両を実測してみたらL2で3mを超えていました。
ディーゼルの力強さと9速オートマがキャンピングカーの走りを高める
搭載されるエンジンは共通で、直4ディーゼルインタークーラー付きターボ仕様です。排気量は2184ccで、最高出力132kw、最大トルク450Nmを発揮します。排気量は控えめですが、しっかりとパワーを絞り出してくれるヨーロッパらしいディーゼルエンジンです。
実際に走行してみるとその走りはスムーズ。架装していないクルマで空荷だったというアドバンテージがありますが、比較的短い合流車線ながら、あっという間に高速の流れに乗ることができました。
トランスミッションはトルクコンバーター式9速オートマチック。もともとスムーズな特性がありながら、ギア比の間隔も狭いことから、急加速であっても気持ちよくストレスフリーな加速をしてくれました。
キャンピングカーに適したフレーム構造
エンジンパワー、ミッション特性が素晴らしくても、クルマはボディのバランスが大切です。これまでにも輸入車に乗ってきましたが、フィアットデュカトのボディバランスは気持ちいい、といっていいモデルばかりでした。
そして、その足回りの構造に関しては、いつも不思議な感覚を覚えていたのも事実です。リアの下回りをのぞいてみると、非常にシンプルな構造であることが分かります。この構造であの走りがもたらされることが不思議でなりません。
上の写真は以前のモデルのスケルトンモデルですが、幅広のラダーフレームにリーフリジットサスペンションが組み込まれ、ダンパーがフレームに直付けされたシンプルな構造になっています。新しいモデルも大きな違いはありません。リアアクスルも直線的な形状でシンプル。なので、フレーム下が非常にスッキリしています。
そのおかげか、荷室のフロア位置も低くなっていると考えられます。リアタイヤハウスの室内への張り出し方をみてみると、円の中心まで室内に入ってきているのが分かります。例えばハイエースのタイヤハウスをみてみると、上部1/3が見える程度であることからも、床面が低く設計されていることが分かります。
この足回りの特性を確認するためにも、峠道を走ってみました。カーブ侵入では、フロントヘビー状態なので、イメージしたトレースラインを思い通り走ってくれて、地面をしっかりとグリップした気持ち良いハンドリングを楽しめました。
そして、その高さと空荷ということで、リア足回りの追従性やバタバタとした挙動が気になったのですが、何の心配もいらないノンストレス状態でした。
連続カーブでボディの状態が戻る前に、次のターンへの動きをしてみたり、カーブからの立ち上がりで振ってみても、ロールも揺り戻しも少ないので、不安を感じることはありませんでした。
やはり、このシンプルな構造でありながら、結果として、不思議な感覚を味わうことになりました。
フィアットデュカトベースの国産キャンピングカーが続々と登場
今回、ステランティスジャパンが正規販売代理店として認定したのは5社でした。販売力、開発力、創造性、さらに、アフターメンテナンスの環境など、いろいろな条件をクリアして選ばれたようです。
その5社は
- アールブイランド
- 岡モータース
- トイファクトリー
- ナッツ
- ホワイトハウス
です。キャンピングカー業界では有名なメーカー・ビルダーばかりです。
各社ではニューモデルの準備に取り掛かっていて、2023年のジャパンキャンピングカーショーでは、数台のクルマがお披露目されるかもしれません。
ベース車両はL2やL3タイプなど、いろいろなモデルをベースにキャンピングカー製造が進んでいるようです。
アールブイランドではL3タイプをベースにして、社内でのキャンピングカー開発が進められているといいます。大きな室内を活用して、快適かつ高級感あるインテリアを追求したモデルが計画されています。
余裕のあるスペースで、ゆったりとしたくつろげる空間を提供することをコンセプトに、あえて、フィアットデュカトらしい新しいモデルに挑戦しているようです。
一方で遊び心を詰め込んだモデルも用意されています。上2枚のパースイラストはもう一台のニューモデルのイメージになります。乗車定員6名、就寝定員4名を確保したレイアウト。
これまで、フィアットデュカトベースの輸入車は4名乗車が多く、国内での仕様としては敬遠する人もいました。そこで、乗車定員を増やして、ファミリーでも利用できるようにしています。
インテリアの製造はバインライフビルダーの鈴木大地さんに依頼することが決まっているそうです。上の写真は鈴木大地さん自身のクルマ。ウッドで覆われた心地よい空間が特徴的なクルマです。
アールブイランドのもう一台のキャンピングカーは、このような空間を楽しむ仕様になりそうです。
新しい価値観を提供して、既存のモデルとは違ったキャンピングカーを作りたい、とアールブイランドの阿部社長はコメントしていて、その形を2つの異なるキャンピングカーで表現してくれるようです。
他社も着々と準備が進んでいて、トイファクトリーではドイツ最大のキャンピングカーブランドハイマーの元メインデザイナーとのコラボレーションプロジェクトを始動しました。
トイファクトリーのクオリティで、これまでにないキャンピングカーを開発しているといいます。
既存モデルの技術を活かして、多彩なモデルを展開しようとしているのがナッツです。アッパークラスからエントリーモデルまで、さまざまなキャンピングカーを作れることを強みに、数種類のモデルを構想中だといいます。
岡モータースではレイアウトが定まり、制作段階に入ろうとしているそうです。岡モータースでは自社で開発しているミニチュアクルーズで、組家具工法を使ったバリエーション豊富なモデル展開を行っています。サイズは大きくなりますが、これまでの高いクオリティを維持したモデルが誕生することは間違いないようです。
ホワイトハウスでも、ヨーロッパ基準とは違う、日本らしいモデルを作ろうとしているようで、同社のモノづくりへのこだわりを感じるキャンピングカーが出てくることに期待します。
今回、正式に国内へ入ってくるモデルは、フロントシートが回転式になっています。この回転式シートをどのように活用して、車内レイアウトをしてくるのか、各社の腕の見せどころです。
輸入車バンをベース車両にしたキャンピングカーは、国内では非常に珍しい潮流といえるでしょう。スポットで入ってきた輸入車ベースはありましたが、正規販売代理店がある程度のボリュームで国内へ車両を輸入する状態は初めての経験です。
国産キャンピングカーのなかでも、まったく新しいモデルが誕生することが考えられます。価格帯ではキャブコンなどと同じセグメントになるかもしれないので、乗車定員、就寝人数をキャブコンに合わせてくるとも考えられます。
しかし、今回、各メーカーに問い合わせたところ、フィアットデュカトらしさを感じる使い方をしたい人へ向けたモデル作り、というコンセプトが強いようにも感じました。新しい国産キャンピングカーの世界が、また新たに始まろうとしているのかもしれません。