山梨県北都留郡の源流域にある小菅村。地域にある道の駅こすげでは温泉施設「小菅の湯」や森を活用したアスレチックパーク「フォレストアドベンチャー小菅」など、充実の設備が整っています。キャンピングカーユーザーにも人気で、源流域ならではの魚や自然の恵みを求めて多くの人が来場する人気施設です。
施設が集まった一角には小さな家=タイニーハウスが建っているのですが、これも小菅村によって建てられたそうです。小さなスペースに住むというミニマリズム的な発想、どこかキャンピングカーに似ていますよね。
そこで、今回はこのタイニーハウスを設計した一級建築士・技術士の和田隆男さんに話をうかがいに行ってきました。一緒に行ったのはオフィス環境を整備しながら、未来の住宅などの勉強会を開いているオフィスマーケティング研究所合同会社 代表の平野修一郎さんです。
小菅村にタイニーハウスが建つまで
さっそく、建物の中へ。8畳ほどの小さな家でしたが、室内は意外と中は広く感じられました。シングルベッド2つ、ダブルベッド1つがあって、計4人が寝られるスペースが確保されています。シャワーやトイレ、流し、冷蔵庫、クーラーなど、すべてが揃っているんです。
この家を設計した和田さんは、数年前、仕事が落ち着いた頃、ガーデニングの勉強でイギリスに渡りました。すると、家を借りていた大家から、小さな家の設計を依頼されたといいます。そこで、家のスケッチを書いてあげたら、とても喜んでくれたそうです。この体験が小菅村のタイニーハウスにつながりました。
「それまで小菅村の公共施設に携わっていました。隣の温泉施設こすげの湯が最初の仕事です。その後、学校の体育館、役場などを設計しました。でも、そろそろ会社に奉仕するのではなく、これからは地域に奉仕しようと思いまして、働き方を変えました。最初は小菅村に花を増やそうという考えを持っていたのですが、村では住宅が足りないし、資金もないということで、タイニーハウスを提案することになったのです」
初めてのタイニーハウス
最初は和田さんの自分の別荘として設計していたタイニーハウスでしたが、小菅村村長舩木直美さんが興味を持ったことで、地方創生事業となり、今ではタイニーハウスのコンテストが開催されるほどの盛り上がりを見せています。でも、最初は不安もあったといいます。
「8畳という広さで成立するかが心配でした。家として捉えていたので、水場など、フルスペックを目指していました。設計している時は、無理やり詰め込んだ感じがありました。でも、出来上がってみると、思った以上に空間が広がりましたね」
小ささを感じないスケール
この広さ体験して感じたことは、家はそんなに大きくなくてもいいんじゃないかという発見でした。子どもが生まれたらどうしよう、という心配もありますが、足りない時は追加すればいいと和田さんは言います。まずは軽くスタートすることが大切ということです。
タイニーハウスを体験した平野さんは
「このコンパクトなスペースに、生活サポート機能がほとんどそろい、しかも4人が寝られるとは驚きです。これで十分なんだと、体験してみて初めて分かりました。家とキャンピングカーの間ぐらいの存在かもしれませんね。キャンピングカーをドッキングさせて、タイニーハウスを使うのも面白そう」
タイニーハウスの使い方
「そうなんです。使い方は自由なんですよ」と和田さん。キャンピングカーと同じように、小さな家だからこそ、必要であれば、どこかに持っていってもいいという。キャンピングカーと組み合わせて、生活のコアとなる設備をタイニーハウスに、移動できる空間をキャンピングカーに求めるなど、いろいろなアイデアを提案してくれました。
平野さんも「家は雨風を防いでくれればいいし、晴れれば外に出ればいいんですもんね。大きさはあまり関係ないのかもしれません」という。
しかし、実際のところ、家に対して、ここまで柔軟に考えられるのは稀なのかもしれません。多くの人がデベロッパーの家を購入して、大きな借金を背負うことになります。そんなセオリーも和田さんは間違っていると指摘してくれました。
資産としての家ではなくなった
「人口が減って、家も余ってくることが分かっています。だから、資産としての価値は下がる一方です。もちろん、これまでは資産としての価値がありましたが、時代が変わってきたのです。この家は500万円で建てたのですが、その程度であれば負担も少ないですよね」と和田さん。
平野さんからはこんな指摘も
「子どものためにとか、いろいろと考えて一生懸命家を買うんですよね。でも、子どもとの生活も十数年。よく考えると2LDKぐらいで十分なのかもしれません。住宅を購入するときに、部屋を増やすためのコストアップを考えると、その費用でキャンピングカーやタイニーハウスの購入を検討するのも夢があると思います」
実際にタイニーハウスを体験してみて、十分に生活できる環境と500万円というコストを考えると、家に対して楽に考えることができるようになります。また、キャンピングカーでも指摘されている、狭い空間で過ごした際の家族の絆も深まりそうです。
家よりも地域が重要になる時代
コンパクトな家でありながら狭さを感じないのは、その環境の良さもあるかもしれません。窓の外に広がる自然など、広さを生活に取り込む工夫が施されています。実際、窓の設計では空気の流れ以外にも、そこから見える景色を重視したといいます。
環境の良い場所を選んで建てられるのもタイニーハウスのポイントかもしれません。しかし、街に住んでいる人が、突然、山奥に移り住むのは難しいと言っていいでしょう。そこで、自治体の協力が必要になってきます。
「街にある程度安心できるゾーンがあればいいんじゃないでしょうか。道の駅が近くにあるというのも、都会の人には移住しやすいかもしれません。この地域はタイニーハウスやキャンピングカーで滞在していいですよ、という場所があったら面白いと思います。街側も住みやすさをアピールして、街の活性化を促すこともできますし」と平野さん。
働き方の変化
家を郊外に移すとなると、通勤が大変になってきます。しかし、和田さんは数年前から小菅村に事務所を構えて、2拠点生活を実践しているそうです。
「私は週末に家族のいるマンションに帰ります。仕事場を郊外にすれば、渋滞もないし、ストレスも軽減できます。逆転の発想ですべて解決できるんです。今はテレワーキングなど、移り住みながら仕事することもできます。だから、住宅の概念も変わるべきだと思いますね」
「2拠点というと、郊外がサブに感じますが、メインを郊外にして、サブを都心にするんですね。面白い発想だと思います。仕事のあり方も変わってきていますので、会社でも週の数日は郊外で仕事する環境を整えてもいいかもしれません」と平野さん。
ヨーロッパのキャンピングカースタイルでは数ヶ月単位でキャンプ場に滞在して、移動を繰り返す人もいます。働き方が自由になれば、日本でもこんな光景が見られるようになるのかもしれません。そうすれば、ストレスも少なくなり、家族の状況によって、家の環境を変えられそうです。
小さなスペースで大きく暮らすタイニーハウスとキャンピングカーには共通項がたくさんありました。家の概念、生活様式、働き方など、たくさんの考え方が大きく変わろうとしているようです。タイニーハウス、キャンピングカーによって、発展していく新しいライフスタイルが楽しみです。