「ゲホッ!ゴホッ!」激しくせき込み、おのれの手のひらを見て愕然とした・・・・そこには真っ赤な鮮血が・・・・と、昔の日本映画やドラマには良くあるシーンです。
胸の病はかつての日本の国民病、当時、抗生物質など決定的な治療法もなく、安静にして精のつくものを食し、いわば自然治癒に頼るしかなかった時代。他の疾病についても同じような状況だったようです。
そんな時に有効だったのが「温泉湯治」病気に合わせて泉質を選び、時間をかけて治療するというものでした。最低でも一週間以上、どうしても長丁場になるので宿泊費用を安く抑える為に、共同台所に食材を持ち込んでの自炊が一般的でした。世界でも類を見ない温泉大国・日本には、温泉地が約3,000箇所以上もあり、古くから「湯治」が行われてきましたが、私の年代ですと「湯治」と聞くと、前述のように、なにか暗く、やりきれないイメージでした。
しかし、近年では特定の難病・疾病だけでなく、精神的な病も含め、ストレス解消やリラックス効果を求めて療養に訪れる、それも時間に余裕のない現代人向けの比較的短期間の「現代湯治」となり、さらには、環境省は2017年に、その土地の自然や文化、食なども活かした現代のライフスタイルに合った、温泉地で過ごす「新・湯治」と命名しています。
その湯治場も、昨今のコロナ禍で、閉鎖のところも多いと聞きますが、そんな時こそ「走るソーシャルディスタンス」のキャンピングカー、しかも自炊ができ、ある程度の滞在も可能なキャンピングカーを使った全く新しい「キャンピングカー湯治」が提案できるのではないでしょうか? コロナその他で、ますますストレス蔓延、うつ病も増える中、そんな現代において、クルマ旅+温泉に、周辺の自然や歴史、文化、食などを活かした多様なプログラムを楽しみ、心身共に元気になるコンテンツができるのでは?と、早速、幾つかの温泉を巡ってみました。
赤沢温泉旅館(栃木那須塩原市)
キャンプは勿論、車中泊からグランピング、お宿のお泊りもできるキャンピングカー湯治
東京から約160キロ、時間にして約2時間のところにある、那須塩原温泉郷にある「赤沢温泉」温泉街の中心部からは、2キロ程はなれた、箒川(ほうきがわ)沿いにある温泉です。
中心街から外れてはいますが、川沿いというスペースにも余裕のあるロケーションを活かして、普通の宿泊に加えてグランピングや、車中泊なども可能で、正にキャンピングカー湯治にも最適な入浴施設と言えます。泉質は、ナトリウム・カルシウム−塩化物温泉で、若干、温めですが、それ故にゆっくりまったり、身体を温めてくれるような気がします。
宿泊客が少ない時は、時間制の貸切風呂になるという、普通の旅館では考えられないシステムがあるので、家族だけでゆっくりと、またコロナ禍でも安心な入浴ができます。
脱衣所には、コイン式の洗濯機や乾燥機もあるので、滞在が長くなっても洗濯の心配もありません。前述の様に、ここにはグランピングも車中泊も可能なので、それらを組み合わせた「ハイブリッドクルマ旅」も可能になります。
例えば、最初は、車中泊。お宿に泊まるよりは安価なので、これで数泊過ごします。キャンプ、つまり車内外での調理も可能なので、お安く食費を浮かせます。焚き火もできるので、ワイルドな焚き火飯なども楽しめます。身体が煙臭くなったり、キャンプなどの屋外生活に若干、疲れたら? 最後の数日は、お屋根の下で過ごす・・・これが、宿泊の「合わせ技」である「ハイブリッドクルマ旅」です。しかもこれにグランピングも加わるのですから、一点豪華に、いつもとは違ったお泊りも楽しめます。これなら、心身ともに癒され、適度な刺激もあって、健康フルチャージ! 明日への気力みなぎる「キャンピングカー湯治」になるでしょう!
湯島の湯(山梨県南アルプス温泉郷西山温泉)
こんなところに車中泊ができる温泉があった!
ここは、車中泊のできる温泉を探している時に見つけた温泉です。車中泊ができる温泉施設と言えば、くるま旅クラブの「湯YOUパーク」が有名ですが、探せばあるもんですね、車中泊ができる入浴施設! 場所は、山梨県の南アルプス温泉郷西山温泉の手前に唐突?にある入浴施設「湯島の湯」です。元々、西山温泉は湯治場として有名で、甲府からほど良く遠く、心地よく山奥で、現世から適度に隔離されて養生できるところです。今はリニアのトンネル工事で、妙にザワついていますが、トンネル掘り終わったら、また以前の秘境に戻る事でしょう。
この湯島の湯、行ってまず驚くのは、温泉の前にド~ンとヘリポートがあります。聞けばドクターヘリの発着場だとの事。やはり秘境なので、いざと言う時の対応なのでしょう。でも何かあったら、ドクターヘリが来てくれる場所なので、妙に安心感があります??
ここの温泉は、珍しい事に内湯がなく、露天風呂だけしかありません! 流石に洗い場は寒い冬とかでは外だと凍えてしまうので、中にありますが、お風呂は外で、身体を洗う時には中の洗い場でと普通の温泉とは違うのでビックリします。しかも、この洗い場は水道の蛇口、つまり冷水しかなく、暖かいお湯は目の前にある「湯樋」から汲んで使います。これにも面喰います。
ここの温泉には、コテージなどの宿泊施設がありますが、車中泊も一泊1000円でできますので、一週間滞在しても、ビジネスホテル一泊分しか費用がかかりません。お風呂も、町外の人の場合でも500円と格安なので、トータルコストの削減にもなります。
RVパーク安楽寺(徳島県板野郡)
お遍路+温泉で心身ともにリフレッシュ!
お寺にあるRVパークという事だけでも興味深々ですが、更に温泉があって、四国八十八カ所霊場会の六番札所である温泉山安楽寺駐車場に併設されたRVパークともなると、それはそれは心身ともにありがたい「キャンピングカー湯治」ができそうです。
お寺に泊まることを参籠(さんろう)とかおこもりと言います。平安の昔から祈願廻向のため読経念仏し、仏さまのもとで一夜を明かしてご利益や夢告に浴するのが目的とされていたので、それがRVパークでもできてしまいます。(残念ながら私の車中泊の夢には仏さまはお出でになりませんでした) 実際にあったお話ですが、「脊髄カリエス」という医者にも見放された難病にかかり、長年床についていたご婦人が、ご主人と共に四国八十八カ所巡礼を決行されたところ、不思議、そのご婦人の難病が快癒されたそうです。
四国八十八カ所のお遍路だけでなく、先祖供養やお参り、観光等に利用もできる上に、各種プランが用意されていて、霊験あらたかな「夜のお勤め」(宗教・宗派不問)に参加することもできます。
たまには屋根の下で寝たいという方には、ホテル並みの設備のある宿坊もあります。お寺料理を楽しみ、病魔から人々を救う薬師如来様のご加護のある弘法大師様が発見したと伝えられている温泉に浸かり、これは、ちょっとした病気ならば、一挙に退散!となりそうです。
万病に効果のある温泉が湧き出ていたことから名付けられた「温泉山 安楽寺」は、御本尊「薬師如来様」、「金剛宝拝殿の弘法大師様御一代記」、「厄除けのさか松」、「松本明慶作の仏像が安置されている大師堂・多宝塔」など、見どころの多いお寺ですので、境内だけでも歴史のある観光ができます。
RVパーク安楽寺
・所在地:〒771-1311 徳島県板野郡上板町引野8・電話:088-694-2046
*お問い合わせ受付時間7:00~18:00
ホームページはこちら(くるま旅のホームページより)
増冨の湯(山梨県北杜市)
昔からその効果が評判のラジウム温泉
中央道須玉ICから僅か17kmちょっと、約30分弱のところにある温泉。武田信玄が金発掘の際に湯を発見し、秘蔵湯として傷病兵を療養させたと言われる「信玄の隠し湯」のひとつです。
大正時代の初めにラジウムの効能が広く宣伝されてからはラジウム温泉として有名になり、現在に至るまで療養泉として長い歴史を誇る温泉です。
山梨県の北西に位置する増富温泉。日本百名山のみずがき山、金峰山の麓、本谷川沿いに位置し、温泉だけではなく、美しい豊かな自然の中、遊歩道散策、本谷川渓谷の新緑や、通仙峡紅葉も疲れた心身に休息を与えてくれます。
今回、訪れたのは、癒しの里づくりに取り組んでいて、温泉の効能を生かした入浴で人間が本来持っている自然治癒力を高める入浴方法などの指導を行っている日帰り入浴施設「増富の湯」です。実は、残念ながら増冨温泉には、公式な車中泊施設がありません。が、増冨の湯の駐車場は、第一から第三まで駐車場があり、非公式で「今現在」は、車中泊を黙認してくれている状況です。ですから、バッドマナーなどで「車中泊禁止」にならないようにしなければなりません。ここの駐車場は、トイレもなく、夜は真っ暗(ですから星は恐ろしく綺麗!)になりますが、トイレのあるキャンピングカーなら安心です。
ここの温泉郷でも、コロナ禍で、歴史のある湯治場や共同台所などが閉鎖されているところが多いので、まさに「キャンピングカー湯治」が有効になるのではないでしょうか?増冨温泉は、効能のある良い温泉なのです。あの難病と闘う、元プロレスラーの垣原さんも、ここで「キャンピングカー湯治」をされたそうです。実際に入浴してみると・・ラジウムがビシバシ、身体に効いてくるような感じがしました。山奥ですが、意外とICから近く、道も狭くなく、手軽に現世から気持ちよく?隔離されたエリアだと思います。個人的にもすっかり気に入ってしまいました。ここにRVパークがあったら本当に最高なのですが・・・。
温泉と自炊場がある宿をいくつか当たってみたのですが、殆どが車中泊はNG。一部の宿が、コロナだから(つまり人が少ないから)OKだが、宿泊客が多い時は、車中泊も、炊事場の利用もお断りするかもしれません・・・とやはり当然?泊まり客優先で車中泊客の扱いは厳しいものがありました。
そんな状況でも、キャンピングカーにはキッチンがあって自炊できるのだからと考えてみれば、温泉のあるRVパークやオートキャンプ場、湯YOUパークでの「キャンピングカー湯治」が可能になると思います。しかも車内炊事の方がソーシャルディスタンスの点でも良いかもしれません。
温泉街も、キャンピングカーは宿に泊まってくれないと毛嫌いするのではなく、受け入れてくれれば、「車中泊がメインだが、気分を変えるためにときどきはホテル・旅館の部屋を取って宿泊する」という方が3割もいるというデータもあるので、宿にとっては“ボーナス客”になる可能性があります。いずれにしても、決して「キャンプする専用車」ではない、キャンピングカーの可能性の一つとして、「キャンピングカー湯治」を体験してみては如何でしょうか?