新しい商品や最新技術ばかりが、もてはやされる現代。それは自動車業界においても例外ではないが、自動車大国アメリカでは「古き良き時代のクルマを蘇らせて現役で走らせる」ことへのリスペクトがあり、その思想がクラシックカー文化として息づいている。
実は日本のキャンピングカー業界にも、本場のオールドカーファンをもうならせるような、強いこだわりと深いバックボーンを持つ1台が存在する。それが今回紹介する、MYSミスティック佐藤代表の愛車マツダ・プロシードのトラキャンだ。
現代に蘇った30年前のUSトラキャン
鮮やかなレッドボディとホワイトのキャンパーシェルのコントラストが目を引く、USスタイルのトラックキャンパー。1994年型マツダ・プロシードの荷台には、アメリカ・Six-Pac(シックスパック)社のキャンパーノーブル75が積載されている。
30年近く前のスタイルを現代に蘇らせたこのトラキャンは、MYSミスティックの佐藤代表にとって特別な1台だ。
「1991年にMYSミスティックを創業して、輸入トラキャンの販売をスタートしました。記念すべき1号車は、ダットサンD21にSix-Pacノーブル75ミニというシェルを積載したトラキャンでしたが、これがまったく売れなかった(笑)。
その後、2号車としてマツダ・プロシード+Six-Pacノーブル75のトラキャンを販売したところ、これがヒットしてようやく商売が軌道に乗りはじめました。当時は、営業から整備まですべて1人でこなして、とにかく生きていくために必死。そこに一筋の光を差し込んでくれたプロシード+ノーブル75のトラキャンは、自分にとってもMYSミスティックにとっても“原点”というべき1台なんです」(MYSミスティック佐藤さん)
当時は、まだインターネットもなく展示会に頻繁に出展する余裕もなかったため、自らトラキャンに乗って遊ぶことが“佐藤さん流の営業スタイル”だったという。
「プロシード+ノーブル75のトラキャンに乗って、ヒマさえあれば家族でキャンプに行っていました。そうやってたくさんの人にトラキャンを見てもらったり、話しかけられた人にカタログを渡すことが、当時の営業活動のメインでした」(MYSミスティック佐藤さん)
そんな思い入れの詰まったトラキャンを蘇らせたのが、現在の愛車だ。佐藤さんはこのクルマのほかに、GMCシエラに本場アメリカのキャンパーシェル・ランス865を載せたビッグサイズのトラキャンも所有しているが、プロシード+ノーブル75のトラキャンは自分にとって特別な存在だという。
当時実際に使っていたシェルを復元
ベース車の1994年型マツダ・プロシードは、MYSミスティックのお客さんが四国で乗っていた車両を譲ってもらったもの。日本で手に入らないパーツはアメリカから取り寄せ、佐藤さん自身の手でレストアを施した。ボディカラーは、当時乗っていたプロシードと同じ鮮やかなレッドだ。
荷台に積載するキャンパーSix-Pacノーブル75は、ナント当時佐藤さんが家族とキャンプに行くなどして実際に使用していた思い出の個体! 何人かのユーザーの手に渡った後シェルを買い戻し、4ヶ月ほどかけて各部をレストアして当時のままの姿に復活させた。
思い出が詰まっているからこそ、「製造時のパーツをできるだけ活かして、当時の雰囲気を残した」のが最大のこだわり。本場のオールドカーファンをもうならせる絶妙なレストアのさじ加減は、生粋のクルマ好き・トラキャン好きであり、日本で30年以上トラキャンにこだわり続けてきたMYSミスティック佐藤さんならではだ。
トラキャンへの思いを込めたレストア
シェルのレストア風景。骨格となるパイン材の木製フレームはそのまま活かし、傷みの激しいバンク部分のみ新規で製作した。
当時のUSトラキャンのアイデンティティともいえるアルミサイディングの外壁は、フロントとルーフのみ新品に張り替え、それ以外の部分は磨きと塗装で仕上げた。張り替え箇所を含めた外壁すべてを、ホワイトではなくアイボリーでペイントして、長年使い込まれたような風合いを再現したのもポイントだ。
インテリアも、あえて当時の雰囲気を残しながらレストアされている。内壁は、当時物のプリントベニヤで張り替え、マットやクッションはレトロ風デザインで新規製作。
家具はそのまま残して枠部分のみ作り直し、クラシカルな色合いでフィニッシュした。
驚きなのは、キッチンや冷蔵庫、ヒーターなどほぼすべての装備を当時のまま残していること。内装の交換パーツは、電装システムとメイン照明、ルーフベントのみだ。
もともと蛍光灯だったメイン照明は暖色系のLEDに変更し、ルーフベントはファンタスティックファンをレトロなアイボリー調にペイントして装着。クラシカルな見た目にこだわることで、当時の雰囲気を崩すことなく現代でも通用するキャンパーに仕上げた。
これぞMYSミスティックの原点!
最新パーツを大量に使用して古いクルマを現代的な1台に仕上げるのは、実はさほど難しいことではない。しかし、それで完成するのは、元の車両とはまったくの別物だ。もっとも難しいのは「当時の雰囲気を残しながらレストアする」こと。それは、長い歴史で培われた知識やノウハウ、クルマに対する強いこだわりがないと決して実現することはできない。トラキャンでそれができるのは、MYSミスティックの佐藤代表しかいないだろう。
約30年の時を経て蘇ったこのトラキャンは、佐藤さんとMYSミスティックにとっての“原点”だ。苦労した時代に一筋の光を差し込んでくれたプロシード+ノーブル75は、令和の時代においても当時と変わらない輝きを放ち続ける。