架装することで、クルマは人やモノを運ぶコミューター以外に、いろいろな使い方ができるようになります。架装車両で代表的なのがキャンピングカーです。キャンピングカー以外にも救急車であったり、作業スペースを設けた特殊車両、さらに、移動販売車やキッチンカーなど、バリエーションは豊富です。
そのなかの1つに福祉車両があります。ハンディキャップのある人を運ぶために、いろいろなシーンで活躍しています。必要としている人にとっては、とても大切な乗り物として、欠かせない存在であることは間違いありません。
この福祉車両をキャンピングカービルダーが作ったら?どのようなクルマになるのか気になります。そんなモデルケースとなるクルマの1つを見せてくれたのが、ケイワークスでした。
ジャパンキャンピングカーショー2024の会場に展示されていた福祉車両「Live」をチェックしてみましょう。
目次
キャラバンのキャンピングカーから進化した福祉車両のスタイル
ケイワークスのブースで来場者の目を引いていたのは、このLive(ライブ)でした。キャラバンをベース車両にした福祉車両です。でも、中を覗いてみると、キャンピングカーのレイアウトになっています。
セカンドシートを倒したフルフラットベッド、シンクを備えたサイドキャビネットなど、一般的なバンコンキャンピングカーと変わらないレイアウトでした。キャラバンを使っているので、標準ボディサイズながら、天井の高い空間が確保されています。
リアフロア部分に広めのスペースを確保。ダウンライトも多めで、室内は明るい雰囲気。フロント側にセットされているベッドは2m弱あって、大人でも余裕で寝られる長さを確保していました。リアの空きスペースには車いす1台を固定できるようになっているそうです。
さらにセカンドシートを走行レイアウトにして、背もたれを立ち上げれば、リア側に車いす2台をセットできるといいます。車内スペースを有効に使っていることが分かります。しかも、キャンピングカー設備を有していることには驚かされます。
リアにスペースを確保していますが、福祉車両にとって、車いすをどのようにして載せるのかが課題です。このLiveにはフィオレラリフトがオプションで設置できるようになっていました。フィオレラリフトはボタン操作で簡単にプラットフォーム(車いすを乗せるフロア)の昇降が可能になります。
プラットフォームのサイズは利用する車いすに合わせられるように2種類のバリエーションがあるようです。しかも、介助者が車いすと一緒に乗り込めるだけの奥行きが確保されているので、安心して乗り込み作業が行えるようになっています。
福祉車両としての使いやすさを追求したキャラバンの室内インテリア
フィオレラリフトの存在感が大きく、このクルマが福祉車両であることは明白です。さらに、設備も一般的なキャンピングカーとは少し違っているようです。キャビネットは左右に取り付けられていますが、シンプルにまとめられていて、車内へのせり出しはありません。
吊り下げ棚は大きく、たくさんの荷物が収納できるようになっています。棚の下にもダウンライトが設置されているので、カウンターの上も明るく、車内のどの場所にも光が回り込んでいました。車内は木目の家具で覆われているので、落ち着きのある空間になっています。
右サイドの上部には吊り下げ棚ではなく、ネットの収納スペースが設置されていました。扉を開くことなく、さっと、必要なものを取り出せる機能性は、マップなどの印刷物や、車内ですぐに使いたいタオルなど、収納するモノによっては便利なのではないでしょうか。
ネット収納の隣、フロント側には収納タイプのフックが取り付けられています。洋服のハンガーやアウターをそのまま掛けておくのもいいでしょう。Liveには、このような使えるアイテムがたくさん装備されています。クルマの中で人がどのように行動するかを考えた装備といえるでしょう。
床には車いすを固定する装置のエアラインレールが装備されています。前後に長く配置されているので、固定位置の調整範囲も広く、2台の車いすをセットするのも簡単です。家族で移動する時など、セカンドシートに近い位置で固定できるのも、Liveならではといえるでしょう。
セカンドシートのシートレールも長く、レイアウトの自由度を高めています。例えば、セカンドシートの座面と背もたれ両方を立ち上げて、シートの前後幅を最小にし、ベース位置を最前部に移動すれば、リア側に、ほぼ車内全体を使えるスペースが生まれるのです。
キャンピングカーとしての装備が福祉車両の概念を変える
Liveは福祉車両ではありますが、キャンピングカーとしての設備をしっかりと装備しています。サイドスライドドア部分にはシンクが取り付けられていて、その横にはスイッチや電源モニターがあります。FFヒーターを取り付けることもできるので、冬場、エンジンを切った状態で暖かい空間を確保できます。
キャンピングカー設備が備わったことで、人を運ぶだけであった福祉車両が担う役割の幅が広がり、クルマの中で快適に過ごすための空間を提供してくれるようになりました。キャンピングカービルダー、ケイワークスによって新しい価値観が生まれたのです。
ケイワークスといえば、バンコンキャンピングカーでいち早く、リチウムイオンバッテリーを標準装備したメーカーです。もちろん、このLiveにもリチウムイオンバッテリーが標準搭載されることになりました。
同社のキャンピングカー同様にメビウスシステム2が搭載されています。薄型のリチウムイオンバッテリー100Ahを2個搭載し、走行充電システム60A、外部充電システム50Aのパワーを誇り、インバーターに出力1500Wタイプを装備しています。オプションで出力310Wのソーラーシステムを組み込めば、電源の不安は解消されるはずです。
オプションでポータブル冷蔵庫も設置できます。キャンピングカーとしては全幅が狭めの標準ボディですが、スペースを有効に使って、冷蔵庫を設置できるようになっています。フリップダウンモニターやマックスファンなどを装備することも可能で、快適なキャンピングカーとしての機能性を詰め込むことも簡単です。
これまでは福祉車両とキャンピングカーは別の存在でしたが、キャンピングカービルダーが製造することで、キャンピングカーに福祉車両の機能性を追加したモデルが誕生したのです。断熱効果も高められ、優れた空調システムを導入することで、これまで福祉車両になかった快適性を提供することができるようになったのです。
キャンピングカーでありながら、福祉車両としての機能性を持たせたクルマが生まれる背景には、ケイワークス黒田社長の強い思いがあったようです。 「ハンディキャップがあっても、みんなと同じように楽しく出かけられる環境を作りたい」。その思いが今回のクルマを開発するきっかけとなりました。自分はハンディキャップを持っているからと諦めていた人、そして、周りでサポートする人、すべての人々に笑顔を届けたい。その思いが形になったのです。
ケイワークスが作ったLiveという福祉車両はキャンピングカーとしての機能性を秘めていました。これまで福祉車両を使っていた人は移動手段という割り切りがあったかもしれません。でも、このLiveの登場によって、その考え方が少し変わるかもしれません。
このケイワークスのLiveのおかげで、車いすを使っていても、家族と一緒にキャンピングカーを使って旅行をしたり、好きな場所に移動して、車内でのんびりとくつろぐなど、これまでになかったライフスタイルを提供できるようになりました。車いす利用者にとっても、よりアクティブに行動したくなる気持ちにさせてくれる、大切なクルマとなるのではないでしょうか。
Live(ライブ) 諸元
- ベース車両
- 日産キャラバン ナロースーパロング
- エンジン
- ガソリン2.5L
- サイズ
- 全長5,080mm╳全幅1,695mm╳全高2,285mm
- 定員
- 乗車定員5名/就寝定員2名
- 車いす固定
- 2台まで