水や電気もない場所であっても、キャンピングカーがあれば生活することができます。でも、キャンピングカーがどこへでも行ける訳ではありません。
舗装されていない道や悪路は、キャンピングカーにとっては不得意。
何もない場所で生活環境を提供する、本来の機能性を発揮するのであれば、もう少し走破性も欲しいところです。
海外では、悪路走破性の高いキャンピングカーが1つのカテゴリーとして存在しますが、国内ではまだ少ないのが現状です。現行の国産キャブコンを見てみると皆無といっていいかもしれません。
そんな、国内では希少なカテゴリーに挑戦したのが、新登場の日本特種ボディー「エクスペディション・イーグル」です。
デパーチャーアングルを考えたキャンピングカー作り
迫力のあるエクステリアデザインは、パリダカールラリーのカミオンクラス車両を見ているようです。
ボディは1インチほどリフトアップして、リアの下部が斜めにカットされています。まさに悪路を走るためのスタイリング。
この形であれば、ギャップを超える時、ボディを地面にぶつけることが軽減できるのではないでしょうか。
リアのカットされた部分には、スペアタイヤやエアコンの室外機が取り付けられていました。本来はボディの下などに装着されているはずですが、耐久性やメンテナンスのしやすさを考えて、この位置に設置されているようです。
なぜ、そこまで徹底して、機能性を高めようとしているのでしょうか。キャンプ程度であればそこまでしなくても、と思ってしまいます。
そこで、日本特種ボディー代表取締役社長蜂谷慎吾さんに聞いてみました。
「このクルマを作ったきっかけは、私たちも参加している日本笑顔プロジェクト(ホームページはこちら)の存在でした。東日本大震災を受けて、発足したプロジェクトで、いろいろな企業が参加して、被災地の支援などを行っています。この日本笑顔プロジェクトで自分たちに何ができるかを考えている時、プロジェクト活動での不便などを耳にして、このようなクルマを作ろうと思いました」
どこへでも行けて、電気水道が使える、そして、被災地での作業にあたっているスタッフたちの後方支援をサポートできる。そんな役割のために生まれたクルマだったのです。
だからこそ、ここまで徹底しているといえるでしょう。機能性を高めたおかげで、レジャーでの使い勝手も向上しました。
「不整地での走行で、ボディを地面に打ち付けることがないように、ディパーチャーアングルを考えて設計されています。クルマが傾斜を昇り降りする時、どの程度の角度まで対応できるかを計算したものです。今回のエクスペディション・イーグルでは、くぼみなどであってもボディがヒットしないように設計されています。例えば、キャンプ場の入り口など、急な坂道が突然現れても、後部を擦ることなく通過できるようになりました」
走行性能の向上を考えて、ボディ形状も特徴的なものになっています。キャンピングカーの居住スペースがフロントのキャビンと接続していないのも、その1つ。
デコボコの道を走った時など、ボディがねじれるのですが、一体型のボディだと、ねじれを吸収できずに、タイヤが地面から浮いてしまうことがあります。
そこで、あえて居住スペースを分割することで、フレームでねじれを吸収して、タイヤの接地能力を高めているといいます。
アウトドアであっても上質なインテリアを提供するキャンピングカー
エクステリアデザインのタフな印象と相反して、インテリアデザインはエレガントな雰囲気です。
室内のロゴなど、レザーのステッチ加工で表現されていたり、手が込んでいます。
エクスペディションの名前に込められのは、最高級の空間を提供すること。荒野での滞在であっても、エントランスを通って室内に入ると、上質な時間を過ごせることを目的にしています。
その上質な空間の入り口となるエントランスはFRPのフロアが設置されました。アウトドアブーツなどを履いていても、そのまま室内に上がって来れるように設計されているのです。
このレイアウトであれば、室内の廊下部分に腰をかけて、ゆっくりと靴を脱ぐことができます。雨の日などは特に便利なのではないでしょうか。
エントランスから直接マルチルームにつながっているので、汚れたアウターのまま室内に入ってきて、マルチルームへ投げ込むなど、アウトドアらしい使い方ができそうです。
入り口側から、マルチルーム、キッチン、そして、奥にリビングスペースが展開されています。
シンクの上に電子レンジを設置し、その向かい側に冷蔵庫をビルトインしています。
乗車定員は7名。この居住スペースにも4名乗車で走行が可能になっています。トラックの荷室とは違って、しっかりキャンピングカーとして利用できるのです。
車高が若干上がっていますが、日本特種ボディーだけが採用しているいすゞのびぃーかむのおかげで、乗り心地も安定しています。
これは、いすゞに技術的な確認をとって、その性能が発揮できる許容範囲内で車高を上げたからでした。
リビングスペースでは左右に2名ずつのベンチが設置されています。奥には移動できるTVがかけられるように。
ダウンライトや間接照明で、心地よい空間が広がっています。外がどんな状況であっても、室内での快適性を確保できる環境が整っているといえるでしょう。
就寝定員は4名。リビングエリアをベッド展開して、さらに上部から電動プルダウンベッドを下げれば、ダブルベッドの2段ベッド仕様が完成です。
リビングのテーブルはそのままで、上からベッドを下げてくることもできるので、デスクで作業途中であっても、プルダウンを使えば、すぐに就寝できます。
デスクの上に書類などを広げたまま、プルダウンベッドでお昼寝など、便利な使い方ができそうです。
リアは左側(写真右)にエントランスドア、右側(写真左)にマルチルームがあり、中央に収納スペースとなる引き出し、その上部にTV、エアコンが設置できるようになっています。
ということは、家庭用エアコンが稼働できる電源システムが組み込まれているということです。そもそも、ベース車両のびぃーかむは走行充電が強力。24Vでありながらオルタネーター90A仕様と高出力タイプになっています。
さらに、オプションで最大600W出力のソーラーパネル充電システムも組み込むことができるので、電気を作る設備は十分。
どこでも、しっかりと電気を作り出せれば、アウトドアから被災地での利用など、幅広い対応が可能になります。
バッテリーは標準で鉛タイプの105Ahを2個搭載。フロアの床下収納を利用して、リチウムイオン電池を組み込めるようにしているとのことなので、さらに大容量の電気が使えるようになりそうです。
この位置にバッテリーを積み込めば、低重心化が促進され、走行安定性も向上するといいます。
走行性能の高いびぃーかむをベースに、悪路のギャップを柔軟に吸収するボディ形状と、バランスの取れた低重心化まで揃えば、走りは完璧になるのではないでしょうか。
床下をバッテリーで占拠してしまったら、収納スペースが減ってしまう、というのはこのエクスペディション・イーグルには当てはまりません。
大型収納スペースが各所にあって、上写真のマルチルームの収納棚でさえ、奥行きのある大型タイプが設置されています。
シート下には照明付きの収納庫が両サイドにあって、外部ゲートから簡単にアプローチできるようになっています。
そして、フロントに取り付けられたキャリアも収納スペースに。
あえてバンクを作らなかったのは、ボディ形状のこともありましたが、フロントキャビンの上部にキャリアを取り付けたかったからという理由もあったそうです。
アウトドアスタイルらしくボックスなどにギアを詰め込んで、キャリアに載せれば、色々なシーンで、この収納スペースを活用することができそうです。
荷物の積み込みには、左側サイドの居住スペースアウター前方にラダーが取り付けられました。
災害支援の日本笑顔プロジェクトがきっかけで始まった、エクスペディション・イーグルの開発でしたが、完成したキャンピングカーは、誰もが楽しめる性能を発揮してくれるマルチなクルマとなりました。
今までキャンピングカーで行けなかった、ちょと先のフィールドへ足を踏み入れ、そして、エレガントな雰囲気を楽しめる、まったく新しいキャンピングカーとして新たなジャンルを切り開くモデルとなりそうです。
エクスペディション・イーグル(EXPEDITION EAGLE)諸元
- ベース車両
- いすゞ Be-cam
- 車体サイズ
- 全長5,010mm/全幅1,970mm/全高2,960㎜
- 定員
- 乗車定員7名(キャビン3名、シェル4名)/就寝定員4名
- 予定価格
- 2WD:¥9,845,000
4WD:¥10,395,000