2024年1月に起きた能登半島地震は甚大な被害をもたらし、今なお生活に支障をきたしている方がたくさんいます。そんな状況下で開催されたジャパンキャンピングカーショー2024では、防災意識の高まりも強く、いざという時の備えとしてのキャンピングカーが提案されていました。
その会場で目立っていたのがトイレ。たくさんのキャンピングカー用トイレに注目が集まっていました。
そもそも、一般的な独立型防災用トイレは有事の際に設置されて、ある一定の期間が過ぎると使えなくなるものが多いのです。利用できなくなる前に、支援の手が届き、ある程度のインフラが整う、という前提でした。しかし、今回の能登半島地震をみてみても、水道設備の普及が遅れている地域も多く、想定外の事態が起こっています。
日本RV協会を中心に、復興支援は継続されていますが、そんななか市場に出回る前の画期的なトイレを現地に送ったのがトイファクトリーでした。その活動と新しいトイレについて注目してみたいと思います。
能登半島地震被災地の支援でトイレカーを作り現地へ
トイファクトリーでは被災地に支援車両を派遣してきました。その内容は、自治体職員、災害派遣医療チームの休憩や宿泊の場所としてのキャンピングカー提供、お客様との協力で集められた支援物資の提供などです。しかし、長引く被災地での水不足やトイレ不足を危惧して、緊急で「トイレカー開発プロジェクト」がスタートしたといいます。
トイファクトリーではこれまでにも、自治体や団体向けに「備えない防災」を提唱していて、そのコンセプトに合わせたクルマ「マルモビ」を作っていました。マルモビは内装を組み替えることで、いろいろな使い方が可能です。今回はこのクルマをベースに、急きょ、トイレカーが作られることになりました。
トイレカーのベース車両はハイエース。その車内に個室用トイレを2つ設置しています。スライドドア部がエントランスになっていて、クツを脱いで室内へ入るレイアウトです。リア側にトイレの扉が2つあり、広々としたスペースが確保されました。手前にある棚には、トイレで利用する備品などを収納できるようになっています。
このトイレカーのおかげで、衛生的な環境が保たれ、安心してトイレを利用することができます。家庭用トイレが使えなくなってしまった人にとって、トイファクトリーの作ったトイレカーの存在は大きい、といえるかもしれません。
個室の中に設置されたトイレは、ポータブルトイレのような形状。外部のタンクなどはなく、完全に独立しています。そして、その横にはポータブルバッテリー。国内のキャンピングカーでは見かけることのなかったスタイルです。
このトイレ設備が、トイファクトリーが以前から製造メーカーとの交渉を行ってきた、未来型ウォーターレストイレ「clesana(クレサナ)」というアイテム。その画期的なシステムをチェックしてみましょう。
水や化学薬品を使わないラップ式トイレ「クレサナ」
ジャパンキャンピングカーショーのトイファクトリーブースに展示されていたのが、能登半島地震被災地へ派遣されたトイレカーで使っているトイレ「クレサナ」です。これまでにも、キャンピングカー用でラップ式トイレはありましたが、これまでのスタイルとはちょっと違うデザインが採用されています。
クレサナはスイスのメーカーで、環境に配慮したポータブルトイレを販売してきました。ドイツ、スイス、オーストリアを中心に、ヨーロッパでは広く利用されているようです。水が必要なく、排泄物を分解する溶剤も使わないので、環境にやさしいトイレとして普及しています。
水や溶剤を使わないので、使い方はいたってシンプル。水分を吸収する専用の吸水ポリマーも用意されていますが、利用しなくても使えるそうです。水分を固形化した方が扱いやすいので、実際はこの吸収ポリマーのみを利用する形が一般的になります。
この吸水ポリマーの使い方もちょっと変わっていて、小袋に分けられているのですが、袋から吸水ポリマーを出す必要がないのです。そのままの状態でトイレの中に入れておけば、袋が溶けて水分を吸収してくれる仕組み。シンプルを追求した仕様でもあります。
トイレを利用した後はパネルのスイッチを操作して、使用した量に合わせて4段階のサイズをセレクトします。ディスプレイ付きのコントロールパネルで使いやすく、見た目もシンプルなデザインです。
システムには電気が必要ですが、トイファクトリーが作ったトイレカーでも採用されていたように、ポータブルバッテリーを使えるのがポイントです。この利便性を活かして、クルマで移動できるところであれば、ライフラインの途絶えた被災地など、どこへでも移動が可能です。
本体内部には専用のフィルムライナーがセットされています。これは筒状のビニールで、使用毎に筒の口を閉じて、袋状にしていくのです。その袋に排泄物などが密閉されていき、水や溶剤を使うことはありません。
この専用のフィルムライナー自体にバクテリアの繁殖を防ぐバリア機能と防臭機能があるので、さらに衛生的。すべてが自動で行われ、常に清潔に保たれるため、カセットトイレのような洗浄作業も必要なくなりました。
袋詰めされた排泄物は本体の下に落ちてきます。袋のサイズをコントロールパネルで4段階に指定できるので、効果的にスペースを活用できるのもポイント。袋はそのままゴミとして捨てることができます。
フィルムは非常に強く、破けることはありません。水分を固形化しているので、溜まっていく袋の処理も簡単です。
トイレ以外にも、衛生用品、医療品、食べ残し、ウェットティッシュなどの処分に使ってもいいでしょう。バクテリアを抑え、ニオイも防いでくれる密閉式なので、いろいろな用途が考えられます。
トイファクトリーのキャンピングカーにいち早く搭載
ジャパンキャンピングカーショー2024の会場で一般カスタマー向けに発表されたクレサナですが、トイファクトリーのクルマには、すでに実装が進んでいました。トイファクトリーではスイスのクレサナ社と直接取り引きを行い、サポートを受けながら進めていたので、どこよりも早くクレサナの採用が実現したようです。
能登半島地震災害エリアに派遣されたトイレカーへも採用されていて、その積極性を感じます。衛生的で扱いやすい機能性に加えて、デザイン性も高く、ヨーロピアンスタイルのキャンピングカーにもフィットするデザイン。トイファクトリーの作るキャンピングカーにもピッタリです。
上の写真がトイファクトリーのハイエースキャンピングカーにクレサナを設置している状態。右奥に見えるのがコントロールパネルです。一般家庭のタンクレストイレのようにすっきりした印象を受けるのではないでしょうか。フタを閉めないとフィルムの処理がスタートしないので、フタの閉め忘れもありません。
クレサナは本体のベース部分が回転するので、シャワー設備などがある限られたスペースでの設置もしやすくなっています。使う時に本体を回転させることで、利用しやすい角度にセットできるようにもなりました。
水や溶剤を使わない環境にやさしいクレサナは、デザイン性、機能性が高く、すべてがオートメーション化され、扱いやすい新感覚のトイレといえるでしょう。その活躍の場所はキャンピングカーにとどまることなく、被災地、介護施設、医療機関など幅広いジャンルに広がっていきそうです。