
キャンピングカーは自由に行動するために、ガス・電気・水道のライフラインが公共のサービスから独立したオフグリッド状態になっています。
ガスは液化ガスを容器に入れたプロパンガスやカセットガスなどを使って、水はタンクに入れて運びます。
どちらも質量があるので分かりやすいですが、電気となると、なかなかその実態をつかみづらい存在です。
だからこそ、電気についてはあまり意識することはないのですが、旅に出る朝、サブバッテリーが空っぽだった、という経験をした人もいるのではないでしょうか。
ガス、水はすぐに調達できますが、電気がない時は充電を数時間待たなければなりません。そんな時、急速充電できたらいいのに、と考えるのはユーザーばかりではなくビルダーも同じでした。
そんなビルダーの1つ、日本特種ボディーから新しい充電システムが開発されたのです。それは、電気自動車などで利用されるEVスタンドを使って充電できる、新しい充電システム「エネクルーズ」でした。
キャンピングカーのバッテリーがEVスタンドで充電できる

一般的に大きなバッテリーを搭載する時は、走行充電システムの強化、ソーラーパネルの増設など、電気量を増やすための設備が検討されます。
日本特種ボディーでも、このサブバッテリーの充電方法に課題を感じていました。そこで今回生まれたのがエネクルーズ。今までの一般的な対応方法とは逆転の発想でした。
高出力の設備は公共のインフラ=EVスタンドを利用して、クルマ側は制御するだけのシステムにすればいい、という考え方です。
現在、EVスタンドは全国に1万8000台強あるそうです。最近ではショッピングモールなどでもよく見かけます。
このスタンドには100Vや200Vで充電する普通充電と高速で充電できる高速充電がありますが、今回のエネクルーズで利用するのは普通充電のスタンドです。

普通充電のEVスタンドを見つけたら、使い方は電気自動車と一緒です。いろいろなサービスで提供されている充電カードを使ったり、クレジットカード決済で電気を購入します。
電気自動車の場合、電池容量が大きいので、みなさん高速充電を利用していることが多いですが、この普通充電スタンドは比較的すいている状態だと思います。
ショッピングモールなどでは、使われない普通充電スタンドがずらりと並んで、「ちょっと、もったいないなあ」と思っていたのですが、このような新たな利用方法で活用されるのはいいかもしれません。

充電スタンドで手続きをしたら、電源ケーブルを接続します。エネクルーズを搭載したクルマには電源コードの差し込み口がボディについています。ここへEVスタンドのプラグを差し込めばOK。
実際に使ってみると、クルマに装備された電気容量パネルの表示で、勢いよく充電されているのが分かります。充電速度はこれまでのシステムと比べて約4倍になっているそうです。
日本特種ボディーのキャンピングカーSAKURAで比較すると、空の5kwhバッテリーを満充電させるのに約16時間かかっていたのを約4時間で充電できてしまうのです。
また、付属の充電システムコードを使うと、家庭の電源に繋いで家庭用コンセントが出力する電力を調整し、最大限充電量を増やせる機能もあります。
サブバッテリーの劣化を制御する充電システム

システムは非常にコンパクトでした。この上の写真の黒いボックスの中で、制御からシステムの放熱など、すべてを行っているそうです。
既存のサブバッテリー充電システムの入力側にエネクルーズの入力系統が追加されるだけなので、システム的にもシンプルに完結しています。
コンパクトにパッケージされているので、追加でシステムを組み込むこともできそうです。リアのラゲッジルームの一部を利用してシステムを組んで、充電用入力コンセントを付けるだけで完成します。

EVスタンドを使って充電した時、ベストな状態で24V50Aの入力があるそうです。上の写真は今回のテストで実際に入力されていた電流の数値です。充電速度は気温などにも左右されるので、まずまずの数値だと思います。
ここで疑問が、EVスタンドの高速充電だともっと早くなるのではないだろうか?でした。でも、それは難しそうです。
普通充電スタンドは100Vか200Vの交流電気が流れているので、システムで直流にして、バッテリーに合わせて電圧を下げています。
一方で、一般的な高速充電スタンドは約500Vの直流電気が流れているので、電圧を下げる負荷が普通充電スタンドより大きくなってしまうので、効率が悪いそうです。
この電気を変換する機能の他にも、いろいろな制御系のシステムが組み込まれているのも、エネクルーズの特徴です。
そもそも、電源スタンドは家庭にあるコンセントとは違って、接続した後、安全を確認してから電気が流れるようになっています。その信号のやりとりに対応しなければなりません。
そして、バッテリーの状態を確認して、電圧を調整したり、ベストな状態で充電できるようなプログラムも組み込まれました。そのおかげで、リチウムイオン電池を使ったとしても、バッテリー劣化を防いでくれる効果を発揮します。
バッテリーへのアプローチを変えることで、新しいキャンピングカーの使い方も

これまで、キャンピングカーのサブバッテリー充電システムは各社でいろいろな技術を開発して、大容量のバッテリーに対応してきました。
キャブコンではエアコンが一般的になってきて、大きなバッテリー容量の需要が増えたことも理由です。
入力側を強化する方法としては、ソーラーパネルを追加する、昇圧システムを組み込む、クルマ自体のオルタネーター出力を高める、などがあります。
しかし、オルタネーターの出力を高めると、エンジンへの負荷が大きくなってしまい、燃費が悪くなるなど、他の個所に影響が出てしまうのです。
そこで、日本特種ボディーは入力を外部に頼ることで、新しいバッテリーシステムを完成させたのでした。

充電システム「エネクルーズ」があれば、キャンピングカーの使い方も変わるかもしれません。充電スタンドのある場所で、休憩している間にバッテリーが復活しているなど、これまでとは違った感覚を味わうことになります。
朝の出発前に自宅でさっと充電する、という使い方もできます。また、長期の旅行でソーラーパネルの出力を気にすることもありません。電源スタンドであれば、スマホアプリでも簡単に電気のある場所が見つけられるので、旅先での不安も軽減されます。
もともとは電気自動車などの充電のために整備が進んでいる充電スタンドなので、キャンピングカーのサブバッテリーを充電するために使っていいのか、不安を感じますが、日本特種ボディーでは各機関に問い合わせをして、利用についての確認もしているといいます。
クルマのためのスタンドなので、バッテリーの充電は推奨できない、という場所もあるようですが、利用者数を増やしたい施設もあって、「ぜひ使ってください」という場所も多いといいます。
現在はSAKURAなど、日本特種ボディーのキャンピングカーオプションとしての搭載がメインとなりますが、コンパクトなユニットなので、簡単に他のクルマへインストールできそうです。
今後は外部充電にこのシステムを組み込んで、EV充電用ケーブルを使わなくても利用できるエネクルーズも考えられているので、今後、キャンピングカーの電源システムが大きく変わるかもしれません。