燃料電池車が作るキャンピングカーの未来

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燃料電池車が作るキャンピングカーの未来

クルマ全般に言えることですが、大きな技術革新が起きているようです。それは、電気を利用した駆動方式が広がってきた事。最近では、各メーカーが新しいモーターを開発したとか、バッテリーの生産能力を上げているといったニュースをよく耳にします。

私たちの生活の中でも、電気自動車のバスが走ったり、宅配業者が電気自動車を導入するなど、身近な変化として感じることができます。キャンピングカーの世界では、まだまだという感じですが、今後、必然的に電気駆動の影響が出てくるのではないでしょうか。

そこで、今回は新しいクルマの新しい技術に注目して、その可能性を探ってみたいと思います。

電動モーターで動くクルマには何がある

燃料電池車「MIRAI」リア回り
リア回りもスッキリとしたデザイン

まず最初に、電気で動くクルマの種類を確認です。
各カテゴリーは細分化されますが、電気の供給を視点に大きく分けると、

  • クルマで電気を作るか
  • クルマで電気を作らないか

で分けられます。前者の代表がハイブリッドと呼ばれるクルマで、トヨタのプリウスなどが有名です。後者は大きな電池を備えて、電気を充電して走る日産リーフなどが代表的なモデルとなります。

さらに、クルマで電気を作れるタイプには、エンジンとモーターで動くタイプ、モーター100%で動くタイプに分けられます。

燃料電池車「MIRAI」室内
高級感漂う新型MIRAIの室内

今回取材したのは、自身で電気を作り、電動モーターだけで走るスタイルのトヨタMIRAIというモデルです。水素燃料を使っていて、クルマの中で電気が作られます。その際、内燃機関を動かして発電しているのではなく、化学反応で電気が生まれていることがポイントです。

燃料電池車「MIRAI」エンジンルーム
ボンネットを開けるとスッキリした機関が見える

そもそも、環境対策として、二酸化炭素の排出量を削減するために、内燃機エンジンを排除する動きもありますが、この考え方には注意が必要でした。

世界の発電方法をみてみると、6割が二酸化炭素を大量に排出する燃焼系の発電に頼っているので、すべてを充電タイプの電動モーターのクルマにしてしまったら、クルマに充電する電気を作る時に、大量の二酸化炭素が排出されることになるからです。

燃料電池車「MIRAI」排管
排管からは水しか排出されない

だからこそ、クルマだけで電気を効率よく作ることも大切な技術をとして、これからも開発が必要ということになります。その際、水素燃料を使うタイプであれば、水しか排出されないので、最も環境に優しいともいえるのです。

MIRAIに乗って最先端のクルマを体感

燃料電池車「MIRAI」フロント部分
走行時に吸い込んだ空気と水素で電気を作る

MIRAIに乗って驚くのが、その静かさです。100%モーターで走り、バッテリーを搭載した電気自動車(以下電気自動車)のような静かさが特徴です。もちろん、バッテリーを積んでいるのではなく、水素燃料を蓄えるタンクと電気を作り出すFCスタックという機械が組み込まれています。

水素燃料をFCスタックに送り、化学反応で電気を作り出すのですが、この時の音はほとんどしません。それを制御するための機械音の方が大きいくらいでした。

そして、アクセルと踏み込むと、スムーズにパワーを発揮するレスポンスの良さ。すぐに本来のパワーを発揮するモーターらしい力強さを感じます。よく考えてみると、電気のスイッチを入れれば、モーターはすぐに回転するので、パワーの出力も早いのは当たり前かもしれません。

燃料電池車「MIRAI」FCスタック
水素を電気に変えるFCスタック

クルマ自体が大きな発電機のような働きをするので、電気家電をアウトドアで利用することも可能でした。このクルマでキャンプに行く人はいないかもしれませんが、災害時などは電気を作り出す強力な設備となってくれるかもしれません。

燃料電池車はキャンピングカーに向いているのか

燃料電池車「MIRAI」インパネ
先鋭的なデザインが印象的なインパネ

燃料電池車がキャンピングカーに向いているのか? その答えを出すために、クルマの特徴を改めて整理してみました。

  • 静か
  • パワフル
  • 発電できる

といったところでしょうか。これは、まさにキャンピングカーに向いていますね。

ドライビング時の静かさは、ストレスを軽減してくれます。長距離を走行するキャンピングカーであれば、ありがたい環境です。

パワーについても、「MIRAI」のモーターは、最大出力134w (182ps)、最大トルク300N・m (30.6kgf・m)を発揮するので、キャブコンのベース車両となるカムロードの3ℓディーゼルよりもパワフルでした。ちょっと驚きのスペックです。

燃料電池車「MIRAI」FCスタック部
FCスタック部に外部出力端子を装備

そして、発電できることもメリットです。バッテリーは積んでいませんが、最大出力1500Wの電源となり、電気が不足したら、効率よく水素から、静かに電気を取り出すことができるのです。

燃料電池車「MIRAI」車内で電気ポット
停車時であれば、車内で電気ポットを使うことも可能

例えば、夏の車内でクーラーを稼働させても、コンプレッサーの音はしますが、エンジン音がしないこと、排出ガスがないことなど、メリットしかありません

さらに「MIRAI」に限った話ではなく、燃料電池車の駆動方式はモーターとなるので、4WDのシステムが組みやすいことも、キャンピングカーに適しているのかもしれません。

燃料電池車「MIRAI」足回り
足回りの拡張性が期待される燃料電池車

4WDにしても、全輪にモーターを組み込むことがほとんどなので、前後を通り抜けるドライブシャフトが必要ありません。ということは、キャビンの床面を低く設計できるので、リビングスペースを広く確保することもできるのです。

燃料電池車が普及するためにはインフラも大切

岩谷産業の水素ステーション芝公園
岩谷産業の水素ステーション芝公園

メリットの大きい燃料電池車ですが、走っている姿をみることは少ないかもしれません。以前の印象では、車両価格が高く、家庭用に導入するにはハードルが高かったというのもありました。

しかし、「MIRAI」の車両価格は税込710万円からで、補助金が最大で約250万円も出る場合もあるので、約450万円で買えるケースも。クルマ本来の性能を左右する、車両のプラットホームもレクサスをベースに作っているので、乗り心地もお墨付きです。

ここまでお手頃な感じになってきたのですが、なんで、普及しないのでしょうか。それは水素燃料の供給に不安を感じている人が多いからではないかと思います。

普段の生活をしていると、水素燃料を買えるスタンドは目に入ってきません。でも、トヨタのホームページで水素ステーションの場所を検索すると、都心部に住んでいれば、近場にあることが分かります。

水素ステーションのスタンド
ガソリンスタンドと変わらない水素ステーションのスタンド

国内で唯一、液化水素を製造していて、国内水素燃料の最大シェアを誇る岩谷産業にお話をうかがうと、2014年7月に岩谷産業が国内初の水素ステーションを兵庫県にオープンさせて、2021年には岩谷産業の水素ステーションが全国で53ヶ所に達するといいます。

水素ステーションの所在地
トヨタのホームページで紹介されている水素ステーションの所在地

他社も合わせると、その数は約160ヶ所。経産省が発表している水素ロードマップによると、2025年までに320ヶ所、2030年までに900ヶ所の水素ステーションを建設する予定だそうです。

水素ステーション注入用バルブ
水素の注入にはこのバルブを使用する

数は政府の後押しもあって、どんどん増えていきそうですね。でも生産供給量は大丈夫なのでしょうか。話を聞くと、水素は産業用で作られていて、そのうち、クルマなどの燃料になるのは1%程度しか使っていないそうです。であれば、生産も追いつきそうですね。

岩谷産業では液化水素技術を使って、海外生産も視野に入れているそうです。液体にすることで、体積が800分の1になることから、コンパクトに運搬ができるのもメリットです。

さらに、水素を作るエネルギー(主に電気)についても二酸化炭素の排出を抑えて製造できるように考えているとも言います。燃料を使って、タービンなどを回す発電と比べたら、水素を製造する方が圧倒的に二酸化炭素の排出が少ないことは容易に分かります。

ここまで読むと、水素燃料を身近に感じることができたのではないでしょうか。キャンピングカーにするメリットがたくさんある水素燃料車ですが、インフラの整備も進み、さらにパワーも向上することが見込まれます。早く、燃料車両のキャンピングカーをみてみたいものです。

そういえば、箱根駅伝で新型グランドハイエースにFCVのステッカーを張ったクルマが走っていましたが、あのクルマでキャンピングカーを作ったら…… 妄想が膨らみます。

撮影協力:トヨタモビリティ神奈川
岩谷産業

WRITER PROFILE
渡辺圭史
渡辺圭史(わたなべ・けいし)

1971年東京生まれ。アウトドア好きな編集者、そして、算数が好きだったライター。アウトドア用品メーカー、出版社を経て、キャンピングカー専門誌編集長に。現在はフリーとして、いろいろなメディアにて執筆中。アウトドアをキーワードに、より楽しいライフスタイルを求めてゆるりと奮闘中。最近気になっているワードは、旅、ミニマリスト、車中泊。趣味はコンパクトな旅とモノづくり。

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