クルマで全国を回っていると、観光名所として知られていなくても、すばらしく環境のいい場所を見つけることがあります。
また、以前は人が来ていたのに、最近は来なくなってしまったのか?と感じるような場所もあります。
全般的に、景色がいい場所で大きな駐車場があるのに、人の姿がなかったり。ちょっと、もったいないと感じていました。
実は、このような状況は全国各地で見られ、地方自治体がさまざまな活動をして、問題を解決しようとしているのです。
今回、クローズアップした高萩市も同じような状況です。ここでは、日産自動車と茨城県高萩市がタッグを組んで、問題を解決する実験がスタートしたのです。
目次
豊かな自然に囲まれた高萩市が打ち出した地域活性化
茨城県高萩市は東京から約150㎞北に位置していて、海と山に囲まれた自然豊かな場所です。県内最大の小山ダムなどもあり、カヌーなどのアウトドアアクティビティも盛んで、アウトドアのまち高萩市としても有名です。
しかし、コロナ感染症の影響もあって観光客が激減してしまいました。そこで、観光事業のテコ入れを考えたのですが、同市が抱える問題も明確になってきたのです。
高萩市は立地がいいこともあって、日帰りの観光客が多く、滞在型の経済効果を得られない課題がありました。
まさに
1 宿泊施設が少ない
2 滞在する人が少ない
3 経済効果が低い
4 観光事業が活性化できない
5 観光設備の整備が進まない(宿泊施設が少ない)
のスパイラルに陥っている状態でした。
そこで目をつけたのが、宿泊、移動手段としてクルマを利用する方法。クルマであれば設備投資も少なくてすみます。また、公園駐車場などの既存施設を利用したり、以前から問題になっている、市内で増えてきた空家も再利用できると考えたのです。
レジャーユースが増えてきたキャラバンを活用したい日産
そのクルマを提供したのが日産です。車種はキャラバン。積載力が高く、ビジネス用途が多かったのですが、最近ではレジャーユースの割合も増えてきたそうです。
自動車メーカーはクルマを作って販売するイメージですが、日産はクルマを使って楽しむことを追求してきました。だからこそ、今回の実証実験に参加して、クルマの新たな「使い方=価値」を提案しようとしているのでは、と考えてしまいます。
日産自動車と茨城県高萩市が観光事業活性化に関する共同実証実験を開始
レジャー用途が増えてきたキャラバンをどのように活用するか、日産ではAD“VAN”TUREというスローガンを掲げ、新しいクルマの使い方をアピールする活動をしてきました。
その一環で行われた高萩市でのイベントがきっかけで、今回の観光事業活性化の話が持ち上がったといいます。そして、両者は宿泊体験の実証実験に関する協定を締結することに。
そして、実施されることになったのが「高萩ムービングビレッジ構想 AD“VAN”TURE 実証実験」。
改めて今回の実証実験の概要をみてみると、高萩駅に日産キャラバンを置いておき、利用者がクルマを借りて市内を周り、クルマの中で宿泊するというもの。そして、移動しながら、高萩市のアウトドアを満喫して、夜は車中泊を体験します。
キャラバンで車中泊しながらアウトドアアクティビティを楽しむ
高萩市は海、山、川、湖でいろいろなアウトドアアクティビティが提供されています。今回の実証実験では、このアウトドアアクティビティもセットになっていて、参加者は好きなプログラム2つを選んで参加できるようになっているのです。
プログラムはSUP、ブッシュクラフト、乗馬&セグウェイ、ヨガ、釣りなどが用意されていました。それぞれ違った環境での体験となりますが、各体験ポイントが車移動で20分程度の位置にあり、高萩市らしさを活かした多彩なプログラムの設定が可能になりました。
キャラバンのキャンパー仕様がディーラーのラインアップに
クルマはキャラバン マルチベッドというモデル。リア荷室エリアでベッド展開できて、テーブル&ベンチとしても利用できるレイアウトです。
しっかりとしたベッドや機能的な展開方法から、後付けパーツのオプションアイテムかと思いましたが、このクルマはカタログモデルとしてラインアップされているモデル。ディーラーでキャラバンを購入する時にセレクトできるのです。
しかも、全国の日産ディーラーで購入可能で、内装を選ぶように、気軽にキャンパー仕様のクルマが選べるのが特徴です。ディーラーに来て、初めてその存在を知り、キャンパー仕様を比較車両として選ぶ人がいるかもしれません。
車中泊をサポートする充実のサービス
このキャラバン マルチベッドが日産から提供され、実証実験の間、高萩駅に置かれることになりました。利用者は駅までやってきて、クルマを借りることになります。
クルマの中には、旅程で利用するアイテムも搭載される予定です。シート下に大きなボックス2つが収納され、1つはアメニティ、他方はカトラリーなどが入るそうです。
サンプルとしてボックスに入っていたアメニティはホテルに泊まった時のようなセット。車中泊をしたことがない人、電車移動などで荷物が少ない人にも、安心して利用できる備品が揃っていました。
ここまで、きめ細やかなサービスは今までなかったのではないでしょうか。車中泊といえば自分のクルマを利用するのが一般的。ユーザーは車中泊の道具まで揃えなければならず、もしかしたらハードルが高かったのかもしれません。それを気づかせてくれるサービス内容でもありました。
車中泊を観光業として捉えることで、これまでになかったサービスが考えられ、新しい車中泊のスタイルが生まれようとしているのです。
非日常を体験する観光活性化プロジェクトがスタート
今回の実証実験は2022年4月28日〜5月17日の期間行われます。参加希望の募集は4月15日まで。抽選で10組限定となっています。費用は大人ひとりあたり6000円。2つの希望アクティビティを体験できて、朝夕の食事まで付いた豪華な内容。宿泊場所は市内の施設や空家を使います。
日産自動車、高萩市ともに、今回1回限りの開催でなく、次回の実施も視野に入れているそうです。価格、サービス内容など、さまざまなデータを取って、今後の事業化を推進したい思いがあるようです。
両者ともこの事業に期待していて、高萩市にとっては
- 自然環境豊かな観光資源の活性化とPR
- 仕様頻度が下がってしまった施設の利活用
- 低コストで宿泊体験を提供可能
- 滞在型観光客が少ないなどの観光課題を解決
などが実現できることが大きなメリットになります。また、日産自動車においても、
- 車中泊ユーザーのデータ確保
- 高萩市の取り組みをモデルケースとして、観光で悩みを抱える自治体へ観光活性プロジェクトを提案できる
など企業メリットも大きいといえるでしょう。
そして、このような事業が恒久的に多くの自治体で行われることによって、地域防災の効果も高められるとも考えられます。
始まったばかりの事業ですが、クルマで移動して宿泊するスタイルと地方自治体の積極的な取り組みによって、新しい観光スタイルが誕生することに期待大です。