日産自動車のリチウムイオン バッテリー搭載車がさらに進化

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ジャパンキャンピングカーショー2018会場に、より市販車に近いモデルが登場

日産キャラバンプロトタイプ ダイネット部
日産キャラバンプロトタイプ ダイネット部

キャンピングカーは、ガス、電気、水道設備など家庭と同じようなライフラインを備えることの多い車両である。
近年、そのなかで電装機器に対するニーズが非常に高まってきた。
その理由のひとつに、エアコンへの依存度が高くなってきたことが挙げられる。日本の夏は年々高温多湿化傾向を強めており、昔なら“贅沢品”と目されたキャンピングカーのルームエアコンが、今や必要な装備品のトップに上がらんばかりの勢いを見せてきた。

また、電子レンジも今では重要な装備品の一つになっている。
かつてキャンピングカーの遊び方がキャンプ場に限られていた時代は、みな車内からガスバーナーや炭火コンロを持ち出し、オーニングの下でバーベキューなどを楽しんでいたが、現在は、キャンピングカーも普通の観光旅行や温泉めぐりの“足”という性格を強めており、食材を手に入れたときの調理も電子レンジで済ませるようになってきた。

キッチン周り。上はエアコン。シンクの右側はIH調理器具
キッチン周り。上はエアコン。シンクの右側はIH調理器具

このような傾向が強まってくると、問題になるのは電気の供給である。
これまで、キャンピングカー旅行中に電気を必要としたときは、走行充電によってサブバッテリーに貯えられた電気を小出しに使うか、キャンプ場に泊まって100VのAC電源を引き込むか、もしくは発電機を焚くという方法が一般的だった。
しかし、前述したように、電気への依存度が増えてくると、そのような既成の電装システムでは間に合わなくなってくる。

そこで、近年、発電機やAC電源の供給に頼らずに電気を確保するような電装システムがあちこちでトライされるようになってきた。
たとえば、高性能バッテリーとソーラーチャージャーを組み合わせた電装技術などは、かなり緻密なシステムを組んだメーカーも出てきており、それなりの成果をげたといっていいだろう。
しかし、ソーラーシステムの精度をいかに上げようとも、そこで得られた電気エネルギーをバッテリーで貯えるには限りがある。いくら高性能バッテリーを用意しても、その蓄電容量に限界があるために、まったくの走行充電なしに2日も3日もエアコンを使い続けることは不可能に近い。

リヤビュー
リヤビュー

リチウムイオンバッテリーは何がすごいのか?

昨年(2017年)日産自動車が発表した「NV350キャラバン“グランピングカー”」(キャラバン・キャンピング特装車ワイドボディ)は、まさにその問題を解決するために企画されたキャンピングカーシャシーだった。
このシャシーには、従来の鉛バッテリーとは異なるリチウムイオンバッテリーが搭載され、キャンピングカーに装備されるエアコン、電子レンジ、冷蔵庫などを駆動する電気容量を飛躍的高めることに成功した。

一般的に、リチウムイオンバッテリーは、従来の鉛バッテリーに比べて次のような特徴があるといわれている。

  • 重量が軽い
  • 充電効率がいい
  • 発電容量が大きい
  • 寿命が長い

このような数々のメリットを持ち、一度充電しておけば、電源供給のまったくない環境でも、エアコン、電子レンジ、冷蔵庫、IH調理器、テレビ、DVDプレイヤー、冷蔵庫といった家電製品を2泊3日から3泊4日ぐらいまでストレスなく使うことができる。
このようなメリットを発揮する日産のリチウムイオン電池搭載車は、昨年各メディアや同業他社からも多大な注目を集め、「キャンピングカーの電装革命」とまでいわれるほどの評価を獲得した。
ただ、まだ開発途上のシステムであったため、細かい部分での技術的解決課題を残したままの状態であった。

リチウムイオン電池を搭載したダイネット
リチウムイオン電池を搭載したダイネット

しかし、今回の「ジャパンキャンピングカーショー2018」に登場した同車は、かなり市販車に近い状態にまで仕上げられた進化版として披露された。
いちばん大きな特徴は、前回総電力量12kWhであったバッテリーが8kWhにまでスリム化されたことである。
これは、昨年の展示が終わった後の意見交換会で、日産自動車に関係した技術者たちの間からあがった声に従ったものだという。
すなわち、会議の席上では、「12kWhの大容量の電気をいったい何に使えばいいのか?」という素朴な疑問が提出されたとも。つまり、当初の狙いを実現するならば、8kWh程度の容量で十分であり、12kWhあったとしても、誰も使い切れないという意見が出たそうだ。

左側が電池。右側にはAC100 V(1.5kW)のインバーターが2個入り、その右には充電&制御ユニットが格納される
左側が電池。右側にはAC100 V(1.5kW)のインバーターが2個入り、その右には充電&制御ユニットが格納される

こうして、今回は電気容量が8kWhに適正化されたわけだが、それによるメリットもはっきりと現われるようになった。
すなわち、バッテリーシステムがスリム化されたことによって家具の架装効率が上がり、シートなどのスペースを広げることができるようになったのだ。
重量も軽減された。
前モデルでは120kg程度もあった重量が20kg程度軽減され、現在は100kg程度に収まったという。

もちろん、前モデルで達成された機能はまったく変わらず。エアコンを駆動したまま電子レンジが使えるという特性も維持され、その状態で照明を使い、テレビを観て、12V冷蔵庫も問題なく稼働する。
ただ、電子レンジと同時にIH を駆動することだけは、さすがに用心した方がいいという。大容量の電気を確保できるバッテリーを搭載しているとはいえ、高負荷の家電を集中的に使うことは制御していた方が安心だとも。

それにしても、一般家庭と変らない電装品を3~4泊も使い続けることができるバッテリーが登場したのというのは、キャンピングカーユーザーには朗報であることには変わりない。

他のリチウムイオンバッテリーとの違い

株式会社オートワークス京都の中屋宣也氏
株式会社オートワークス京都の中屋宣也氏

このような魅力にあふれるリチウムイオンバッテリーだが、実はすでに自社開発製品をキャンピングカーに組み込んでいる架装メーカーも何社が登場しており、実際にユーザーの手元に渡っている。それらのリチウムイオンバッテリーのなかには、走行充電が可能であることを謳っている製品もある。
それに対して、今回キャラバンのリチウム電池開発に携わった人たちはどう思っているのだろうか。
「オートワークス京都」のコンバージョン営業・開発部の白石嘉夫氏や中屋宣也氏は、「自分たちは走行充電にこだわらない」と口をそろえていう。というのは、バッテリーの容量に十分な余裕があるからだとも。「仮に走行充電ができるようにしても、バッテリーに入ってくる電気の量は本当に微々たるものに過ぎないんですよ。そのことに目をつぶって走行充電システムを組み込んでも、エンジンに無理な負荷がかかるだけだし、コストも上る」という。
「それよりも、バッテリー容量そのものを上げて、蓄電量を多くした方が現実的だし、安定性や信頼性が高い」のだそうだ。

上はエアコン。シンクの右側はIH調理器具
上はエアコン。シンクの右側はIH調理器具

では、電池の充電はどうするのか。
旅行に出る前に、家庭からAC電源をコンセントにつないで電気を引き込むだけ。そうすれば6時間から8時間程度で充電が完了する。
旅行中に充電の必要性を感じたときは、とりあえず電源サービスのあるキャンプ場かRVパークに宿泊する。そうすれば一晩の充電で、また翌日から旅を続行できる。
この充電に関しても、今回のモデルは大きく進歩している。
前モデルでは、充電中は機器をすべてOFFにしなければならなかった。
しかし、現行モデルでは、電装機器を使いながらの充電が可能になっている。たとえばエアコンを作動させながらの充電もOK。その場合は多少充電時間が長くなるが、それでも10時間あれば満充電となる。

今回のモデルからは、運転席後ろ部分に、バッテリーの充電状況をユーザーに知らせる電光掲示板のようなパネルが設けられた。そこに表示された数値が、すなわち現在の充電率。パネルに「77」という数字が表れれば、それはバッテリー容量が77%確保されていることを知らせているというわけだ。
目安としては、数値が20%ぐらいを示すようになったら充電時期が来たと判断してよいとも。バッテリーそのものはゼロに近い数値が表れるまで使い切れるが、安全のためのマージンをとった方が無難だという。

電池の充電状況を知らせるモニター
電池の充電状況を知らせるモニター

移動オフィスとしての可能性も

日産ピーズフィールドクラフト ダイネットの助手席後ろ側のシート下に電池が格納される
日産ピーズフィールドクラフト ダイネットの助手席後ろ側のシート下に電池が格納される

では、このバッテリーを搭載したキャラバンキャンピングカーシャシーは、ユーザーのキャンピングカーライフをどのくらい豊かにしてくれるものなのだろうか。
今回このシャシーを使って実際の架装例を披露した「日産ピーズフィールドクラフト」の畑中一夫社長は、次のように語る。

「まずアウトドアで使うときは、100Vのアウトプットがありますから、アンプなどをつなげば野外コンサートなどに利用できるようになります。
また、山奥などの建築現場で工事を指揮したりするときの拠点にもなるでしょう。
一方タウンユースとして使うなら、“移動オフィス”という使い方もあります。エアコンが自在に使えますから、夏場は仕事に出向いたアスファルトの駐車場が、たちどころに快適な商談スペースや休憩室に早変わりします。
冷蔵庫で氷を作ることもできますので、景色の良い駐車場に停めておけば、夜はバー代わりにお客様を接待できます」

27億kmの走行テスト(?)を経験したバッテリー

キッチン周りは日産車のプロトタイプのレイアウトをほぼ踏襲
キッチン周りは日産車のプロトタイプのレイアウトをほぼ踏襲

この車に搭載されたリチウムイオンバッテリーは、電気自動車の「日産リーフ」に採用されたものと同じである。リーフは現在、世界で23万台走っており、それらを合わせた走行距離はおよそ27億km。つまり、「今回のキャラバンに採用されたリチウムイオンバッテリーは27億kmの走行テストを経たと見なすことができる」と日産の説明員はいう。

そのため、日産自動車ではこのバッテリーを搭載したキャンピングカーに対して保証を付ける用意をしている。保証の詳細はまだ不明ながら、バッテリー部分の点検、故障、メンテナンス、リコールなどもすべて「日産自動車」の名のもとにおいて、責任をもって保証する方向に向かいそうだ。

日産版のプロトタイプとはエアコンの取り付け位置が逆となる
日産版のプロトタイプとはエアコンの取り付け位置が逆となる

では、このシャシーが、日産系のキャンピングカービルダーによって架装された場合、完成車の値段ははたしてどのくらいになるのだろうか。

「電池の寿命なども考えながら値段を出さなければなりませんので、今の段階でははっきりした価格を申し上げるわけにはきません」と日産関係者は笑いながら口を濁す。
しかし、年内にタネ車の発売に漕ぎ付けたいということなので、秋口にはシャシーの価格がはっきりするかもしれない。

前述した日産ピーズフィールドクラフトの畑中社長は、「ディーゼル4WDベースのキャンピングカー特装車の上級仕様車ともなれば、フル装備の完成車では1,000万円を超えることもありうる」と予測する。
そうなれば、新規の客層を掘り起こす車になる可能性もある。
「家庭と変らない電力条件を獲得した車になるのだから、快適な住環境に慣れ親しんでいるセレブの嗜好にかなう車に見られるかもしれない」と畑中氏。
国産キャンピングカーがまた一つ大きな飛躍を遂げそうなベース車の誕生である。

WRITER PROFILE
町田厚成
町田厚成 (まちだ・あつなり)

1950年東京生まれ。 1976年よりトヨタ自動車広報誌『モーターエイジ』の編集者として活躍。自動車評論家の徳大寺有恒著 『ダンディートーク (Ⅰ・Ⅱ)』ほか各界著名人の著作の編集に携わる。 1993年『全国キャンプ場ガイド』の編集長に就任。1994年より『RV&キャンピングカーガイド(後のキャンピングカースーパーガイド)』の編集長を兼任。著書に『キャンピングカーをつくる30人の男たち』。現キャンピングカーライター。

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