キャンピングカーでオペラを観に行く 後編

キャンピングカー活用法
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学生の頃にオペラの魅力を知ってから、多忙な現在でも年に一二回は自分の好きなオペラに出かけることにしています。今年は秋に「アイーダ」があるということを知った春先。今回は東京二期会が東京での公演のほかに、札幌文化芸術劇場hitaruの杮落し公演として、また神奈川県民ホール、兵庫県立芸術文化センター、そして大分市のiichiko総合文化センターといった地方の中核ホールとの共同開催でのプロダクションになることはその時点で把握していましたので、やはりクルマ旅でしばしば出かけている小生としては、アイーダを観にクルマ旅をすることを同時に決めていたのです。北海道は行ってみたいですがフェリーに乗らねばいけません。それも悪くはないのですが、やはりクルマでの行きやすさという点では対象から外れました。神奈川県民ホールは地元ですし、何度も行ったことがあります。行ったことのないホールで残りは兵庫県立芸術文化センターと、大分のiichikoホールです。しかし、兵庫はすでに完売とのこと。大分公演は一枚だけS席が残っているということで、至急抑えたという次第です。

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「アイーダ」という演目が放つ壮大さが、旅へといざなう。

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アイーダはヴェルディ円熟期の作品。スエズ運河の開通を記念して作られた、ということに関しては、一旦は荷が重いので、というような辞退の返事をヴェルディがしているという話もあり正確ではないようです。しかし、そのような時代背景で生まれた作品であることは確か。舞台は古代エジプト、許されぬ愛の物語を大作曲家ヴェルディが描いたオペラです。なんと言ってもこの作品の魅力はそのスケール感でしょう。正直、私が1200キロのドライブの挙句に観劇をしてみようなどという邪心が芽生えたのだって、そのスケール感あってのこと。「壮大なオペラを観るなら、壮大に観に行きたいよなあ・・・」なんとなくこういうことを想ってしまうのがわたくしの良くないところですね。

で、壮大なドライブであれば、車中泊もできるキャンピングカーで。あまりキャンピングカーに乗ってオペラを観に行く人も少ないのではないでしょうか。でも、一度やってみると、移動中もしっかり自分の時間を満喫できること。また、有効に過ごせることから、わたくしのような時間的に自由の多いライター稼業をしている者からすると、効率的だったりもすることがよくわかりました。

週末、開演は土曜日の12時ということで、それに間に合うように、水曜日の午後、近くのコストコでちょっと買い出しをしてから出発です。コストコはさすがにスケールが大きいだけあって、2.3メートルを超える全高の今回のキャンピングカーリンエイ「バカンチェス」もギリギリではありますが通常の駐車場に駐車可能でした。(これは車種と、施設によってはその限りでない場合もあるので各店舗にご確認ください。)サイズ的に標準幅でロング入ルーフボディの4輪駆動です。ルーフトップにはソーラーパネルが備わり、その分が数センチの厚みを持っていますので、そのくらいがベース車両との違いということになります。

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長距離ドライブのお供にはよく購入するのがバナナ。あまり休憩時間が取れなかったり、つい食事の時間を過ぎて走って、空腹になったような際にも簡単に食べることができて、便利です。多少押した旅程でも体調維持という面でバナナは頼もしいおやつです。できればちょっとクルマを停めて、よーふるとか何かと一緒に、とかにすれば、立派な朝ごはんにもなりますね。あとは、途中で購入するにしても、ミネラルウォーターなど、飲み物ですね。冷蔵庫があるというのは頼もしいです。今回冷蔵庫はほとんど切ることはありませんでした。常に冷たいドリンクがあるというのは、やはりドライブの充実度が全然違います。

すっかり通いなれた、しかし1200㎞の道のりを西へ西へ

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246を走り、厚木から清水まで東名高速道路を走ります。途中仮眠を取りながら、あくる朝は浜名湖の近くで朝ごはん。国道1号線のバイパスだと、浜松から豊橋市に入るまでノンストップですが、平行する国道沿いにあるドライブイン、というかトラックドライバーさんも御用達の港屋食堂さんで肉なべを食べます。ついついいつもこれを頼んでしまうのです。肉なべと称して、運ばれてきた鍋に肉は見えません。たっぷり野菜でおおわれているのです。野菜をかき分けていくと、豚バラ肉が登場。甘辛い醤油味の鍋はごはんが進みます。ここでは一緒に糠漬けも必食!!漬かり具合が最高なのです。

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そしてこの後、23号線を経由、揖斐川の河川敷を北上し、関ヶ原を抜け日本海側に出ました。途中名古屋を通るルートを案内されたり、岐阜県に入ったあたりで日が暮れてきましたので立ち寄り温泉で入浴です。岐阜県海津市にある南濃の湯は東海三県が見渡せる高台の立地が売りの一つ。ナトリウム・カルシウム―塩化物温泉は秋深まるこの季節にはうれしい、良く温まるお湯です。そこを出て、琵琶湖を抜けて福井県の小浜を通り、再び京都の福知山の北側あたりで、国道9号線に合流。そこからは日本海側をひたすら走るルートです。

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途中で出会う名湯も旅の楽しみ

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国道9号線は鳥取県、島根県とほぼ日本海側を走ります。信号が少なく、数か所多少流れが鈍くなる箇所がありますが、大都市の渋滞というものからすればかなりクルマの流れが順調な路線です。神奈川出身の筆者からすると、海から見えるのは朝日ですが、日本海側は沈みゆく西日が全部見届けられるのです。これはこれでなかなか雰囲気のいいものです。鳥取砂丘、白兎海岸、やがて、島根県に入ると少し内陸に入り、宍道湖のそばを通って再び石州と呼ばれる地域で再び日本海側へ。最近世界遺産になった石見銀山などもある地域。この地域には温泉津(ゆのつ)という場所あります。その名で温泉がないはずはないと思い少し集落へ入っていくと、古くからの湯治場の名残が。1500メートル地下から掘った温泉というのは多いですが、非常に浅い地下2~3メートルという浅いところから湧き出す薬師湯。ナトリウム・カルシウム一塩化物温泉(低張性中性高温泉)の温泉はph6.4とわずかに酸性寄りの中性の泉質。思わず声にならない声が絞り出されてしまう気持ちよさがあります。

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その先は浜田、益田あたりを通り津和野、それを抜けると山口県山口市に至ります。宇部の手前で国道2号線や、山陽道と合流して、九州はあと少し。

この島根県も最後というあたり、懐かしい自販機のうどんラーメンがあります。ここを通るとつい食べてしまうのです。こんなのを食べるようになったのは最近のこと。でも何か懐かしいものです。全国各地に点在するのですが、管理しているお店で仕込みがそれぞれにあって味が違うのが特徴です。ここのは、地元のゆずが浮かべてあったりして特徴的です。いつもは外で寒空の下食べるのですが、今回はキャンピングカー。車内でゆったりくつろいで食べることができました。

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なんとか土曜日の未明に苅田北九州空港インターを降りて、すぐに給油。(これは、高いので、高速道路でできるだけ給油しないため。)ここから10号線で大分まで走りました。

その地方の酒を飲み食事をした歌手たちが、その地に響き渡る唱演をする。それに浸るのが地方オペラの魅力であり文化である

写真右は今回アモナズロを歌った上江隼人さん
写真右は今回アモナズロを歌った上江隼人さん

大分に入る前には別府、オペラを観る前にひとっぷろ浴びましょう。というので、別府駅前の「高等温泉」という立ち寄り入浴ができる施設に寄ります。温度の高い高等温泉と並湯があって、並湯の方は水で温度調節をしてもいいそうです。私は高等温泉。43度は少し熱いが、浸かると一気に目の覚めるようないいお湯でした。

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そして1時間ほど前に大分につき、ゆっくりホールに向かうことにしました。1200キロ、また湯めぐりの旅のようになってしまいましたが。そうして聞くアイーダは最高でした。有名なアリアの数々、また、凱旋行進曲など、例の場面と言いたくなるような定番の、しかし、それを生で聞く迫力というのはまた格別なものでした。

凱旋行進曲で鳴り響くアイーダトランペットの高鳴り。1200キロのドライブはこのためにあったのです!これが聴けたから大満足です。そう思わずにはいられませんでした。

写真右は今回ラダメスを歌った城宏憲さん
写真右は今回ラダメスを歌った城宏憲さん

地方オペラも最近は魅力的なプロダクションが多数催されています。それを迎える町のモチベーション、劇場に足を運ぶファンの熱意も首都圏のそれとはまた違うものがあるのです。何より、同じプロダクションであっても、地方地方にいわば巡業するオペラ一座、その地のお酒や味覚で腹を満たすことでしょう。そのエネルギーで、高らかに歌い上げられるのです。それは、本場でもきっと観ることができないオペラであると思うのです。こういうものに触れることこそが、地方オペラの魅力であり、よく言われる文化なのでではないでしょうか。東京でも観れるものを大分に観に行ったのではなく、東京の「アイーダ」ではなく、大分の「アイーダ」を観た。今回この事実をいつも以上に、強く感じることができたのは最大の収穫と言えるでしょう。

帰りは開場で買った昔のアイーダのCDを購入今度は瀬戸内側を東に向かい走ります。何度も何度もアイーダを聴けるほど時間がかかります。ですので、依頼されていた原稿なども少しずつ進めながら、休憩をしながら、5日間かけて家路に就きました。

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地方オペラは、クルマ旅で観に行くのも一興、ではなく、むしろクルマ旅でこそ行くべき愉しみ

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オペラは長い、と言われます。2時間。休憩時間なども入れれば4時間くらいかかるものも普通です。そうではないだろうと思いました。日が昇り、日が沈む。それを何度も繰り返し、そのドライブを経てオペラを観て、再びその余韻に浸りながら帰途に就く。如何にじっくりと味わえるかではないでしょうか。これもクルマ旅しながらオペラを観に行く良さですね。

大自然の中でキャンプをするのもいいでしょう。しかし、この国の錦秋という季節に、1枚の絵を観に、一曲の演奏を聴きに出かけるクルマの旅。出かけられてみてはいかがでしょうか。大分でオペラを観た後、尾道で、でべらがれいをお土産に帰宅。冷蔵庫がなければあれは持ち帰れません。なるほど、よりわがままに旅ができる。もっと時間に欲張りになってみたいな。今回の旅でそんな風に思いました。

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WRITER PROFILE
中込健太郎
中込健太郎(なかごみ・けんたろう)

自動車ライター。1977年生まれ。神奈川県出身。武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部電気電子工学科・水素エネルギー研究センターを卒業後、自動車産業向け産業機械メーカーを経て、大手自動車買取販売会社で店舗業務からWEB広告、集客、マーケティングなどに携わる。現場経験に基づくクルマ選びや中古車業界の事情は今も明るいことから、ユーザーはもとより、自動車販売の現場からの信頼も厚い。幼少期からクルマをはじめとした乗り物好きが高じ、車種を紹介するコンテンツなども手掛ける一方、「そのクルマで何をするか」をモットーに全国をクルマで旅行し、食べ歩き、温泉巡り、車中泊といったカーライフに関する執筆も多数手がける。

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