キャンピングカーは長く乗られる傾向があるようです。一般的なクルマであれば、走る、曲る、止まる、といった運動性能が注目されますが、キャンピングカーの場合は、室内の快適性を気にする傾向があるので、ライフサイクルが長いのかもしれません。
人によっては、ベース車両を変えても、同じキャンピングカーに乗り続ける人も居て、老舗ビルダーには、そのようなお客さんも多いといいます。キャンピングカー製造を始めてから、40年が過ぎるビークルでも、同じような傾向が見られるそうです。
ビークルの前身となる1973年創業の浜本商会から数えると、50年近い歴史があるので、40年以上通い続けるお客さんもいるというから驚きです。なぜ、そこまで長く愛されきたのか、その答えを求めて、創業者の濱本繁美社長にお話をうかがってきました。(お話をうかがった濱本社長:写真左と藤森店長:写真右)
目次
カーショップからキャンピングカービルダーへ
ビークルはカーショップとして1973年に創業しました。最初は、クルマのパーツを扱うカーショップだったそうです。当時はクルマにクーラーが装備され始めた頃で、日々の事業はクーラー取り付けに追われていたといいます。
しかし、パーツを扱う大手量販店などが進出して、カーショップとしての事業に不安を感じた濱本さんは、キャンピングカービルダーの研修制度をスタートさせた、ロータスの門を叩きました。そして、キャンピングカー事業を開始したのが81年。まだ、キャンピングカーが珍しかった時代です。
当時はバニングと呼ばれるカスタムが主流で、キャンピングカーは少数派。インテリアには派手なモケット生地が張られていて、カーショップを経営していた濱本さんの会社には、スピーカーをたくさん付けてほしいなど、カスタム系の依頼も多かったそうです。
それでも、ギャレーを取り付け、キャンピングカーとしてのクルマを提案し続けたといいます。最初はファッション的な趣向でキャンピングカーが話題となりましたが、徐々にキャンピングカーを楽しむユーザーが増えていったそうです。
濱本さん自身も、クルマを制作して、家族との旅行に使っていたといいます。
「当時はキャンピングカーが珍しくて、いろいろな場所で注目されました。潮干狩りにいった時、その場で調理したことがあるのですが、みんながこちらを見ていたのを覚えています。当時、そんなことをする人はいませんでしたから。でも、翌年には同じようなことをする人が出てきて、さらに翌年には、台数も増えていました」
丈夫なキャンピングカーを作りづづけたビークル
濱本さんが乗っていたクルマは、現行モデル、フューチャーの原型とも言えるレイアウトでした。基本的なクルマ作りの考え方は変わっていなくて、当時からキャンピングカー作りで気をつけていることは、丈夫に作ることだったそうです。
自分がクルマを運転する時、ガタガタと音がするのは嫌だったこともあって、とにかく、しっかりとした家具作りを心掛けていたと言います。そのために、家具の取り付けから、ベースとなる床の設置まで、独自の技法を成熟させてきました。
「現在、店舗がある場所には材木店がありました。家具用の材木を扱っていて、いろいろなことを勉強させてもらいました。歪みや素材の強さなど、家具ならではのノウハウがあって、木材の乾燥なども徹底していました。だから、家具の組み方も、他のメーカーと違うのかもしれません。しっかりとした強度を追求した結果です」
その完成された室内を見ると、家具がフロアに接している部分的に隙間がなく、木材が組み合わせられた個所でさえ、段差がありません。木材へのこだわりもありましたが、製造方法についても、何か秘訣があるようです。
「もともと、実家が製鉄所だったこともあって、ものづくりをする上で、いろいろなアイデアを考えることが好きでした。フロアを平らにするにはどうすればいいか考えて、最終的に大きな治具で解決することを思いついたのです。これを使うと、水平なフロアを、クルマに負担をかけることなく、施工することができるのです」
キャンピングカーのレイアウトは進化しながら増えていく
今も販売されているフューチャーは、キャンピングカー製造を始めた頃からあったということで、すでに40年以上の歴史があります。ビルダーとしての歴史も長いですが、ロングセラーモデルが多いのも特徴です。その他にも、レイアウトは増え続けています。
「社員みんなにアイデアを出してもらって、新しいレイアウトを考えています。昔から続いているタイプもあれば、新しく生まれるものなどもあって、当初、5種類だったラインアップが、今では16種類になっています」
ベース車両は日産キャラバンとトヨタハイエースが平均的に使われていて、他のビルダーに比べると、キャラバンのキャンピングカーが充実している印象があります。
「カーショップ時代から、近くの日産と仲良くさせていただいていました。時々、整備工場を行き来して、よく知っていたので、キャンピングカーを作り始めた時は、担当者もよく知った近くの日産からクルマを買っていて、今でもその縁が残っているのです」
まだまだ使えるキャンピングカーの家具
以前、ベース車両の調子が悪くなって、乗り換えを検討しているオーナーさんがいたそうです。持ち込まれたキャンピングカーを見てみると、クルマの調子が悪いのに、丈夫に作られた家具はそのままだったと言います。
「お客さんのなかには、家具をそのまま使ってほしいという方もいらっしゃいます。実際、クルマが悪くなっても、家具は使える状態ですから、もったいなく感じるかもしれません。18年使ったクルマでも、家具はきしみ音すら出ていない状態だったこともあります。でも、家具はクルマごとに合わせて作っているので、簡単に載せ替えができないのです」
このように、使い慣れた家具をそのまま使いたい、というオーナーさんも多いようです。だからこそ、ベース車両が変わっても、同じレイアウトを選ぶ人が多いというのも納得ができます。
「うちのお客さんは、長いお付き合いの方が多いです。カーショップ時代から40年以上お付き合いしている方もいて、30年以上の方はたくさんいらっしゃいます。みなさん、同じクルマに乗り続ける方が多いです。家族構成が変わったり、行動パターンが変わるので、こちらが心配してしまうぐらいですが、一度気に入ったレイアウトを変える方は少ないようです」
誰にとっても新車として初めて触れるクルマ
最近では、初めてキャンピングカーに乗るというお客さんも増えているそうです。長年のお客さんであれば、クルマについてよく知っていて、そのモデルがたどってきた変遷を理解していますが、新しいお客さんにとってビークルの歴史を感じることはありません。
「一般のクルマであれば、新型車が発表されると、多くの人が知ることになりますが、キャンピングカーの新型車が出ても、それほど話題になりません。だからこそ、初めてキャンピングカーに触れる人にとって、そのクルマが新型車となることを意識しています。それは、一般的なクルマと一緒です。継続されているクルマであっても、新しさを感じて、見た時にワクワクするクルマをしっかりと作るだけなのです。そして、お客さんが、このクルマで楽しい時間を過ごしたい、と感じてもらえればいいと考えています」
この姿勢は多くのユーザーに理解されていて、その作りの良さ、レイアウトの使いやすさなど、ユーザーがユーザーを呼ぶように、ビークルはファンを増やしています。
隣接する工場では職人がコツコツをクルマを作っていて、キャンピングカーを注文したお客さんは、その進捗状況を気軽に見学できるようになっています。そして、自分仕様のキャンピングカーを作っていくそうです。
そこには、スタッフとオーナーが一緒にクルマを作る姿がありました。それは、キャンピングカーを作っているというよりは、これから長く続くパートナーとしての関係を築いているといってもいいではないでしょうか。
長く愛される答えが見えてきました。